刺激を与える側、すなわち「光」の電磁的エネルギーを「放射量(radiant quantities)」といい、電力などと同じ「ワット [ W ] 」を基本単位として表記されます。≪※1≫
また、刺激を受ける側の人間の眼がその光からどれだけの刺激を受けるか、すなわち、人間の眼が感じる「明るさ」を「測光量(luminous quantities)」といいます。「測光量」は、「ルーメン [ lm ] 」という単位を基本単位として表わされます。
「放射量」および「測光量」は、それらを評価する場合の面積や角度(立体角)などの幾何学的条件の違いによって、更に各種の量に細分化されます。具体的には「放射量」については、「放射束」、「放射エネルギー」、「放射照度」、「放射発散度」、「放射強度」、「放射輝度」に細分化され、また、「測光量」については「光束」、「光量」、「照度」、「光束発散度」、「光度」、「輝度」に細分化されます。もう少し具体的に説明していきたいと思います。
「放射束」や「光束」は、風呂場で使用するシャワーに例えると直感的に分かり易いのではないかと思います。
水道の蛇口を開くとシャワーヘッドから、無数の水滴群が噴出してきます。シャワーヘッド部分が放射源(光源)に相当し、シャワーヘッドから吹き出してくる水滴群の流れの勢いが放射束(光束)に相当すると言えます。≪※2≫
水道の蛇口を更に開くと、シャワーヘッドから吹き出す水滴群の勢い(単位時間当たりに吹き出す水量)はより強くなります。
つまり、光束(放射束)が強くなったことに相当します。
「光」は、空気や透明ガラスなどの媒質空間を電磁的エネルギーとして伝播していきますが、ある着目したエリアを単位時間(例えば1秒間)にどれだけのエネルギーが通過していくかという放射量を「放射束」と言います。エネルギー量の単位は ジュール [ J ] ですから、放射束の単位は、単位時間当たりのエネルギー量(ジュール毎秒 [ J/sec ] )、すなわち ワット[ W ] ということになります。
平たく表現をすると、この放射束の強さを人間の眼の感度特性で見たときに感じる「明るさ」を「光束」と言います。≪※3≫
「光束」の単位は ルーメン [ lm ] で表記されます。≪※4≫
この ルーメン [ lm ] で表記される「光束」が測光量の最も基本となっており、お馴染みの「照度」や「輝度」の単位もこの ルーメン [ lm ] を基礎に組み立てられています。
今回は、「放射量」と「測光量」について、「放射束」と「光束」の場合を例にとって、共通な条件(幾何学的条件)と、異なる条件(分光的条件)について説明しました。つまり、「光束」は「放射束」を「人間の眼」で評価した「明るさ」ということができます。
電力の単位はワット[ W ]で、電流アンペア[ A ] と電圧ボルト[ V ]の積であることはご存知だと思います。この電力と光の放射束が、同じワット[ W ]という単位で表わされるということは、ちょっと結びつきにくいのではないかと思います。両者はどこでどういう具合に繋がっているのでしょうか?ワット[ W ] とは、単位時間当たりの仕事量、すなわち、[ジュール毎秒:J/sec ]で表わしますが、この仕事量として、実は、発熱量が介在しています。
黒体とみなすことのできる特殊な電気抵抗体に放射束を照射すると、その放射束のエネルギーは全てその抵抗体に吸収されて熱量に変換され、抵抗体の温度上昇となって現れます。 放射束 P1 ワット[ W ] を t1 [秒]間照射することによって抵抗体の温度が ΔT1 だけ上昇したとします。
一方、その抵抗体に(放射束を照射しないで)電力 P2 ワット[ W ](電圧 V2 ボルト[ V ]、電流 I2 アンペア[ A ] )を印加すると、その抵抗体は電気エネルギーにより発熱します。電力を t2 秒間印加したときの抵抗体の温度が ΔT2 だけ上昇したとします。このとき印加した電気エネルギー(電気的仕事量)は
P2 ・ t2 = V2 ・ I2 ・ t2 [ W・sec ] = [ J ] です。
電圧 V2、電流 I2、時間 t2を調節してΔT1 = ΔT2 となる条件を求めてやれば、このとき放射束の照射と電力の印加は等しい仕事をしたことになります。 すなわち
P1 ・ t1 = P2 ・ t2 = V2 ・ I2 ・t2 [ W・sec ] = [ J ]
と書くことができます。
この式の右辺は電圧計、電流計により正確に求めることができますので
P1 =( t2/ t1 )・ V2 ・ I2
なる計算により、放射束の値が、電力と同じ単位ワット [ W ] によって表わすことができることになります。
シャワーヘッドから霧吹きのように水滴群が吹き出されていると考えれば、その水滴の一粒一粒が、「光子photon」に相当すると考えられます。無数の水滴(光子)が水流(光)を構成している、というイメージが湧いてくるのではないでしょうか?
「放射束」を「人間の眼」で見るということは、「人間の眼」の分光応答度特性、すなわち標準分光視感効率 V ( λ ) で評価する、ということになります。この時に「人間の眼」が感じる明るさが「光束」です。
つまり、「放射量」の内の1種である「放射束」と、「測光量」の内の1種である「光束」は、幾何学的な条件は共通で、分光的条件のみが異なります。分光的条件とは、放射束が物理的エネルギーそのままの評価であるのに対して、光束は、その放射束の分光分布(波長毎のエネルギー分布)に対して「人間の眼」の波長感度特性である標準分光視感効率 V ( λ )による重み付けがかかった形で評価する、ということを指しています。
大きな考え方としては、「放射束」を人間の眼で見たときの「明るさ」が「光束」なのですが、この関係をもう少し厳密に説明します。
正確には、放射量(ワット単位)から測光量(ルーメン単位)への変換には、最大視感効果度Kmと呼ばれる変換定数を掛ける必要があります。Km = 683 [ lm/W ]
P ( λ )[ W/nm ] という分光分布をもつ放射の放射束を Φe [ W ] とし、この放射束に対応する光束を Φv [ lm ] と書くと、数式的には以下のように表現されます。
(添え字 “e”は”energy“の頭文字、添え字”v”は”vision“の頭文字です。)
標準分光視感効率 V ( λ )は波長555 nm がピークで、これを1として、他の波長での視感効率を相対的に定義したものです。従って、例えば波長555 nm の単色光の放射束が1 ワット[ W ] あったときの光束は683ルーメン[ lm ] となります。