「電磁波」とは、電磁的エネルギーが空間を振動しながら伝播していく物理現象を指して言う言葉です。光も電磁波の一種ですが、電磁波と呼ばれるものには、「光」よりもずっと波長の短い γ (ガンマ)線、 X 線などから、広義の「光」(紫外・可視・赤外)、更には「光」よりずっと波長の長いマイクロ波や放送用の電波まで、多くの種類があります。
X 線は、健康診断の時などにお世話になるレントゲン撮影に使われる「電磁波」です。またマイクロ波の使用例としては、電子レンジがお馴染みです。また電波にも短波、中波、長波など色々ありますが、ラジオやテレビの放送に使われているのはよくご存知でしょう。これらは、物理現象としてひとくくりの「電磁波」と総称されています。私たちはこれらの電磁波を、それぞれの波長帯の特性を活かし、日常生活から産業全般にわたるまで様々な形で活用しているわけです。
池に物体を投げ込むと、その周りに波紋が広がっていきます。 水面に浮かんでいる物体は波紋の動きに応じて上下に規則的に振動しますが、(風が無い限り)その場から移動することはありません。波動のエネルギーが波紋とともに周囲へ伝播していきます。
水面の波紋が岸に当ると反射され元の方向へ逆進しますが、寄せてくる波と返す波が重なって強めあったり弱めあったりすること(波動の干渉現象)が観察されます。 水面に浮かんでいる物体は、波紋の重なり方に応じて複雑に上下に振動します。
また、波の進行方向に障害物があっても、その背後まで波が回りこんで行く現象(波動の回折現象)が観察されます。この回り込み方は、波長が長いほど顕著になっていく性質があります。
電磁波もその文字表記の通り「波」の性質(波動性)を持っており≪※1≫水面の波紋と同じようなことが起こります。 例えば、水面の波紋の山から山までの距離を「波長」と言います。
一方、電磁波の発生原理にさかのぼってみると、極めてミクロな視点から電磁波が1個、2個と勘定できること、すなわち「粒子性」を持っていることが分かります≪※2≫。
電磁波は、「波動性」と「粒子性」をあわせ持っており、波長が長くなるほど、回折現象や干渉現象などの「波動性」が顕著に表れます。放送局から送られてくるラジオやテレビの電波が建物の陰や室内でも受信できるのは、電波の波長が非常に長いため回折という「波動性」特有の現象が起こるからなのです。また、波長が短くなるほど、「波動性」は目立たなくなり、電磁波は直進する、すなわち「粒子性」が顕著に表れてくることが知られています。「粒子性」とは電磁波を1個、2個と勘定できることを指しますが、その性質としては直線的に進行する(回折現象が起きにくい)ということです。この「粒子性」に着目して電磁波を扱う場合、1個1個のエネルギーの“かたまり”を光子(こうし)と呼びます。
光も電磁波の一種ですから「波動性」と「粒子性」をあわせ持っていますが、電波に比べれば波長がずっと短いため、直射日光による影に見られるようにほとんど直進しているように見えます。しかし、それなりの実験装置を準備すれば回折現象などの波動性を確認することができます。
これらの電磁波(光子)のエネルギーは、その波長に対して反比例することが知られています。つまり、光子は波長が短くなるほどエネルギーが大きくなる訳です≪※3≫。 光子1個1個が、その波長に応じたエネルギーをもって飛来し、人間の眼や肌を始めとして、あらゆる物体にガツンガツンと“衝突”する訳です。このとき、光子のエネルギーが大きいほど(波長が短いほど)、“衝突”される側への影響が大きくなり、物体を構成する分子構造を変化させたり破壊したりすることになります。
その結果、光子の波長が短いほど、人間や動物の生体組織にダメージを与え、様々な傷害を引き起こしやすくなります。極端に短い波長( γ (ガンマ)線や X 線など)では生命自体に直接深刻なダメージを与えます。
また、生体以外でも紙や布などの変質・褪色を促進する原因になります。
なお、1個の光子がもつエネルギー自体は極めて微小ですので、人間は光子の1個1個をとても感知することはできませんが、無数の(可視波長域の)光子が集まることによって、人間は「明るさ」を感じることになります。
太陽からは様々な種類(波長)の電磁波が放出されており、地球にも降り注いでいます。
地球には大気の層が存在するため、波長が280 nmよりも短い電磁波、すなわち光子のエネルギーが大きくて生体に極めて有害な電磁波( γ (ガンマ)線、 X 線、UV-Cなど)は大気層で吸収されてしまい地表にはほとんど到達しません。
また、UV-B(280〜315 nm)は0.5%程度、UV-A(315〜380 nm)は5%前後(季節や天候によって変動する)が地表に到達すると言われています。
可視や赤外は一部大気中の水分の吸収を受けますがほとんどが地表に到達します。この地球上で我々人類を含む多くの動物が生を保っているのは、可視から赤外にかけての太陽光エネルギーの恩恵を受けているのと同時に、生体に極めて有害な短波長(UV-B以下の波長)の電磁波を大気層が吸収・遮蔽してくれているからと言えます。
南極地方上空のオゾンホールが地球環境面で大きく問題視されていますが、これはオゾン層で吸収されてしまうはずの紫外(UV)成分がオゾンホールを通り抜けて地表に届いてしまうからなのです。
また、宇宙飛行士が宇宙船外で作業をしたり月面に上陸したりする時、宇宙服を着ます。なぜ宇宙服を着るでしょうか?思いつくのは、呼吸のための空気の補給です。それ以外にも、宇宙服はガンマ線、X線、UVなどの有害電磁波を遮蔽し人体を保護するという重要な機能も持っているのです。
健康診断の時などにお世話になる X 線撮影も、極短時間のみの照射なので特に問題にならないのですが、X線を繰り返し浴びる危険性の有るX線技師の方は撮影の度毎に遮蔽室の中に入って撮影作業を行っているのはよくご存知でしょう。
UV-C以下の波長の電磁波は生体に対して極めて深刻なダメージを与えてしまいますが、わずかながらも地表に到達するUV-BやUV-Aも全く安全というわけではありません。真夏の強い直射日光を長時間浴びると、水脹れを伴う強度の日焼け(sunburn)をしたり、皮膚表面の細胞組織が損傷を受けて炎症を起こしたり、更にはDNAを損傷したり皮膚癌を引き起こす可能性があります。これはUV-Bが主原因であると言われています。あるいはまた、冬のスキー場でサングラスをかけずにいると、雪眼と言われる眼炎を起こすのもUV-Bが原因と言われています。
UV-AはUV-Bよりも危険性は低いというものの、皮膚深部にまで到達して皮膚組織を構成するコラーゲンを変性させ、皮膚の加齢を促進する、すなわち、シミやソバカスの原因になると言われています。化粧品会社が「お肌のUVケア」などと宣伝しているのはこのことです。
また、可視域の中でも波長の短い光は可視域の中では光子エネルギーが強いため、青色の強い光を直接見ると網膜に傷害を起こす危険性があります(青色光網膜傷害)。
白い紙を長期間太陽光などにさらすと黄ばんできます。これも(可視域の中では)光子エネルギーが強い短波長側(紫や青)の成分のために紙の組織がダメージを受けて、その結果、紙の反射率が可視域の短波長側で低下してしまうことが原因なのです。
波長の長い電磁波すなわち赤外あるいは電波については、光子としてのエネルギーは小さいため、波長の短い電磁波に比べると生体への影響は比較的少ないのですが、それでも皆無というわけではありません。赤外放射についてはその温熱作用のために、硝子細工職人などで多量の強い赤外放射を眼に受けて白内障を起こす例も知られています。
これらの生体や物体に対する影響は全て、電磁波エネルギーの波長依存性に強い関係があるものです。
電磁波とは、空間の「電場(electric field) E 」 と「磁場(magnetic field) H 」が互いに振動しながら空間を伝播していく物理現象です。
「電場」とは、ある空間に「電荷」が存在すると、その電荷に力を及ぼす空間の性質のことを言います。その「電荷」自身も周囲に電場を形成しています。電荷には“+” と “−”の2種類ありますが、電場を介して同極性同士(“+” と “+”、または“−” と “−”)は反発し合い、異極性(“+” と “−”)は引き合います。冬場によく経験する静電気は、絶縁性の高い素材において電荷が発生して蓄積され、他の絶縁性物体に近づくと、異極性の電荷を引き寄せ、場合によってはその間で放電が起こる現象です。この場合、固定された状態下では電荷の周りの電場の強さは時間的に変化しないので「静」電気と呼ばれます。
また、「磁場」とは、磁極(磁石のN極とS極)に対して力を及ぼす空間の性質のことを言います。磁石は「磁場」を介して、同極性同士(N極とN極、またはS極とS極)は反発し合い、異極性(N極とS極)の場合には引き合います。小学生の頃、下敷きの上に砂鉄をばら撒き、下敷きの下から磁石を近づけると、磁石のN極からS極に向かってきれいな曲線状に砂鉄が並ぶ実験をしたことがあると思います。これは磁石のN極、S極の周囲に形成された磁場により、砂鉄の磁性(磁区といいます)が磁力線に沿って整列されることによって観察される現象です。この場合も、固定された状態下では、磁場の強さは時間的に変化しないので「静」磁気と呼ばれます。
電場と磁場とは互いに密接な関係があります。磁場が変化すると電荷に力が働いて電荷を移動させ(電流が流れる)、電流が流れると磁場に変化を及ぼす、という相互作用が起こります(電磁誘導)。このような相互作用により空間的なエネルギーの“周期的な振動”状態が作り出され、空間を電磁的エネルギーが横波となって伝播されていくことから、これを「電磁波」と呼ぶ訳です。
電磁波の電場 E と 磁場 H の振動方向はお互いに直角の関係(x軸方向とy軸方向)であり、また電磁波の進行方向もこれと直角(z 軸方向)になっています。
光(電磁波)は太陽や炎や電球などの光源から放出されてきますが、そもそも光はどのようにして発生するのでしょうか?
この世の物質はすべて原子で構成されていますが、この原子は更に原子核と電子から構成されています。右図のような原子をイメージする絵を見た人も多いでしょう。この電子は原子核の周りを或るエネルギーを持って回っていると考えられています。その電子がもつエネルギーは一定ではなく、複数のエネルギー状態を取ることができるのです。
電子のエネルギー状態が高エネルギー(EH)である状態から、何らかの原因で低エネルギー(EL)の状態へ変化(遷移)したとき、そのエネルギーの差分(ΔE = EH−EL)を原子の外に波動エネルギーとして放出します。この放出された波動エネルギーがすなわち光(電磁波)という訳です。1個の電子のエネルギー遷移から放出されるエネルギーが光(電磁波)の最小単位で「光子(フォトンphoton)」と呼ばれます。
一般に光子のエネルギーは振動数 ν (ギリシャ文字で、“ニュー”と読みます)に比例することが知られていますので、この放出された波動エネルギーΔE [J(ジュール)] は、比例定数をh として
ΔE = EH−EL = h・ ν
と書くことが出来ます。(この比例定数hをプランク定数といいます。h ≒ 6.6×10-34 [J・s(ジュール・秒)] )
更に、光(電磁波)の波長をλ [m](ギリシャ文字で“ラムダ”と読みます)、振動数を ν [1/s]、 進行速度をc [m/s] (c は定数で 真空中では c ≒ 3 ×108 [m/s]=30万km/s )と書くと、
c = ν ・λ
の関係があります。 従って、
ΔE = EH−EL = h・ ν = h・c/λ
となりますから、これより、放出される光子(電磁波)のエネルギーは、その波長に反比例する、という重要な関係がわかります。
上記は、1個の電子に着目したものですが、多数の原子でこのような現象が発生すると、無数の電磁的エネルギーの“かたまり”が次から次へと放出されることになります。
つまり、エネルギーの“かたまり” 1個1個がそれぞれ1個1個の電子のエネルギー状態の遷移により放出されたものに対応している訳です。
1個1個のエネルギーの“かたまり”のそれぞれがそのエネルギーに対応した波長で振動して空間を伝播していくのですが、この“かたまり”が光子です。
電子は受け取ったエネルギー分だけ活性化され高エネルギー状態に移ります。これを光による電子のエネルギー状態の「励起」と言い、光のエネルギーが電子に受け渡される現象(その結果、光は消滅する)が物質による光の吸収という訳です。例えば白い紙と黒い紙に太陽光を当てると黒い紙の方が温度が高くなりますが、これは黒い紙の方が多くの光子を吸収し、そのエネルギーが温度上昇という形になって現れたものです。