光と色の話 第一部

光と色の話 第一部

第6回 放射量 と 測光量(その3)

~「明るさ」にも色々ある~

はじめに

これまで「明るい」、「暗い」ということはどういうことか? ということについて述べてきました。これは、光のディテクター・・・「人間の眼」や「機械の眼」・・・が、主に波長軸の視点(分光的視点)から、「光」によってどれだけ刺激を受けるか、ということが説明の中心でした。
一方、我々が「明るさ」を云々する場合は、それ以外の要素についても考慮しなければならない場合が多くあります。
例えば、机上での読み書きなどの作業をする場合の「明るさ」の場合と、テレビ画面や信号灯の「明るさ」、などの場合は異なった条件で「明るさ」を評価しなければなりません。具体的には、前者の場合は「照度」、後者の場合は「輝度」で評価することになります。

幾何学的条件の違いによる「明るさ」の分類

これらの「照度」や「輝度」という概念は、「光」に対する「人間の眼」と「機械の眼」というような“分光的な(波長の)” 要素とは別のものであって“幾何学的な“ 光の進行方向や角度や面積の要素が関係した評価の違いによるものです。
ここでは、「人間の眼」の分光特性をベースに定義された「測光量(照度や輝度など)」に対しての幾何学的な分類を主体に説明していきます。純粋物理量としての「放射量(放射照度や放射輝度など)」や「機械の眼」のセンサー測定量 ※1 については、分光的条件が異なるだけで、幾何学的条件については共通しています。
一口で「明るさ」といっても、分光的な観点からは、測光量と放射量(更にはセンサー測定量)に分類され、また幾何学的な観点からは「光束/放射束」、「光量/放射エネルギー」、「照度/放射照度」、「光束発散度/放射発散度」、「光度/放射強度」、「輝度/放射輝度」などの様々な「明るさ」に分類されます。これらの様々な「明るさ」の考え方について、前回の「光束/放射束」と同様に、シャワーに例えながら説明をしていきます。
マシンビジョンの領域においても、ワークの照明条件を検討する場合、照度(放射照度)や輝度(放射輝度)などの幾何学的条件の理解が重要で、その条件設定の如何によって抽出できる情報の質の良否が左右されると言っても過言ではありません。

「光量」 (測光量) と 「放射エネルギー」(放射量)

「光」を扱う色々な場面で、例えば、「照明が暗いから光量アップが必要だ」というように、「光量」という言葉をよく使いますね。この場合、一般会話用語の感覚で照明の強弱の程度(すなわち、「光束」のこと)を指していることが多いようですが、技術用語としては適切な使い方ではありません。
技術用語としては、「光量」 とは、”光束 [ lm ] と 時間 [秒] の積 “のことを言い、光量の単位は、
ルーメン・秒 [ lm ・ sec ] です。

バケツでシャワーの水を受ける場合に例えて考えて見ましょう。シャワーの勢いが強ければ短時間でバケツは満杯になります。シャワーの勢いが弱くても、時間をかければバケツは満杯になります。いずれの場合も「水量」はバケツ 1 杯分です。
マシンビジョンの場では、例えばワークをカメラで撮像する場合、レンズの F 値と露光時間(シャッタ速度)の組合せで適正露出を調整します。レンズの F 値を固定して考えた場合、ワークが“明るければ”露光時間を短く(高速シャッタ)、ワークが“暗ければ”、露光時間を長く(低速シャッタ)して適正露出になるようにします。
この場合は、撮像面に入射する光の“強さ”(撮像面照度)は異なりますが、時間積としての「光量(露光量)」は等しくなるように制御され“適正露出”が実現されます。

以上は「光束」と「光量」の関係について述べましたが、「放射束」と「放射エネルギー」についても同様な関係です。
” 放射束 [ W ] と 時間 [ sec ] の積 “「放射エネルギー」 で、その単位は [ W ・ sec ] = [ J ] です。

「照度」 (測光量) と 「放射照度」(放射量)

「照度」という言葉は比較的よく耳にする機会が多いと思います。例えば、教室や事務所の机の上の「明るさ」が読み書きするのに適した明るさになっているか、という場合に「照度」という指標が使われます。
「照度」とは、着目した面がどれだけ明るく照らされているかの度合いを示すもので、その面の 単位面積 [ m2 ] 当りに入射する光束 [ lm ] で定義されます。照度の単位は、その定義から [ lm / m2 ]という次元になりますが、この意味で特別に
ルクス [ lx ] という単位名称が設けられています。

シャワーの水をバケツで受ける場合を考えてみます。このとき、バケツの受け口(面積 A [ m2 ] )に注ぎこまれる水流が照度に相当します。蛇口を開ければバケツの受け口への水流が強くなります。つまり照度が高くなります。
「照度」は、光源の位置から光を受ける面(照度評価面)までの距離に依存します。 ※2 また、照度評価面に対して、どの方向(角度)から光が照射されるのかによっても照度値は変化します。 ※3
更にまた、照度評価面に対して、光を照射する光源が増えるほど照度は高くなります。※4
照度は、例えば我々が読み書きなどの視作業をする場合の「明るさ」の尺度など、極めて多方面で重要な指標として活用されています。

以上は「光束」と「照度」の関係について述べましたが、「放射束」と「放射照度」についても同様な関係です。
”単位面積 [ m2 ] に入射する 放射束 [ W ] “「放射照度」で、その単位は [ W / m2 ] です。

「光束発散度」 (測光量) と 「放射発散度」(放射量)

「光束発散度」は、「照度」に比べると使われる機会は比較的少ないのですが、「照度」とよく似た概念です。「光束発散度」は、光源面や反射面上の着目したエリアの 単位面積 [ m2 ] から放出される 光束 [ lm ] で定義され、その単位は、
[ lm / m2 ] です。

シャワーの例で考えると、シャワーヘッドの着目したエリア(面積 A [ m2 ] )から吹き出される水は色々な方向に放出されていきますが、これら全ての水流が対象になります。つまり、放出される光の方向は、その面が向い合う側の全空間が対象です。

以上は「光束」と「光束発散度」の関係について述べましたが、「放射束」と「放射発散度」についても同様な関係です。
”単位面積 [ m2 ] から放出される 放射束 [ W ] “「放射発散度」で、その単位は[ W / m2 ]です。

照度と光束発散度の関係

以上からわかりますように、光束発散度と照度は、単位の次元も [ lm / m2 ] で同じ、また放射発散度と放射照度の単位も
[ W / m2 ] で同じです。つまり、単位面積当りの光束、単位面積当りの放射束ということでは全く同じ概念なのですが、異なるのは光の進行方向が逆ということです。照度、放射照度では光が面に向かって入射するのに対して、光束発散度、放射発散度では光がその面から射出しています。

まとめ

回は、各種の幾何学的条件によって定義される「放射量」や「測光量」の内、「光量と放射エネルギー」、「照度と放射照度」、「光束発散度と放射発散度」について説明しました。 次回は、「光度と放射強度」、「輝度と放射輝度」についてお話する予定です。

注釈

※1 センサー測定量

「器械の眼」として採用されたセンサーがどれだけの「明るさ」の刺激を受けたか、を表わす量として、CCS 社では、「センサー測定量」という用語を設定しています。この用語は、まだ世の中で一般に使用されているものではありませんが、ここでは「人間の眼」の特性に基く「測光量」に対応するものとして使用します。詳しくは次回に説明します。

※2 照度の距離依存性

バケツの受け口からシャワーヘッドまでの距離を変えるとどうでしょう。シャワーから吹き出される水は発散しているとすれば、距離が近いほど、バケツの受け口には多くの水流が飛び込みます。すなわち、光源(発散性)を近づけた方がその面の照度は高くなります。

※3 斜め入射光特性 ・・・・・照度の入射角度依存性

シャワーをバケツの真上から注ぎこむ場合と、斜め θ 方向から注ぎ込む場合を比較すると、斜め方向からの方がバケツに入る水は少なくなります。(シャワーヘッドとバケツの距離は等しく角度だけが異なるという条件で)極端な場合、真横からの場合は(重力の影響が無ければ)バケツに水は入りません。つまり、その面への光の入射角度が大きくなるほど照度は低下します。

※4 照度の加法性

別の方向(角度 θ2 )からシャワーヘッドをもう一つ追加すればどうでしょう。両方のシャワーヘッドからの水流が別方向から同時にバケツの受け口に入ります。つまり、電球 1 個で照明したよりも 2 個で照明した方が照度は高くなります。

放射量 と 測光量(その3)
「明るさ」にも色々ある

光と色の話 第一部

光と色の話 第一部

第6回 放射量 と 測光量(その3)

~「明るさ」にも色々ある~

はじめに

これまで「明るい」、「暗い」ということはどういうことか? ということについて述べてきました。これは、光のディテクター・・・「人間の眼」や「機械の眼」・・・が、主に波長軸の視点(分光的視点)から、「光」によってどれだけ刺激を受けるか、ということが説明の中心でした。
一方、我々が「明るさ」を云々する場合は、それ以外の要素についても考慮しなければならない場合が多くあります。
例えば、机上での読み書きなどの作業をする場合の「明るさ」の場合と、テレビ画面や信号灯の「明るさ」、などの場合は異なった条件で「明るさ」を評価しなければなりません。具体的には、前者の場合は「照度」、後者の場合は「輝度」で評価することになります。

幾何学的条件の違いによる「明るさ」の分類

これらの「照度」や「輝度」という概念は、「光」に対する「人間の眼」と「機械の眼」というような“分光的な(波長の)” 要素とは別のものであって“幾何学的な“ 光の進行方向や角度や面積の要素が関係した評価の違いによるものです。
ここでは、「人間の眼」の分光特性をベースに定義された「測光量(照度や輝度など)」に対しての幾何学的な分類を主体に説明していきます。純粋物理量としての「放射量(放射照度や放射輝度など)」や「機械の眼」のセンサー測定量 ※1 については、分光的条件が異なるだけで、幾何学的条件については共通しています。
一口で「明るさ」といっても、分光的な観点からは、測光量と放射量(更にはセンサー測定量)に分類され、また幾何学的な観点からは「光束/放射束」、「光量/放射エネルギー」、「照度/放射照度」、「光束発散度/放射発散度」、「光度/放射強度」、「輝度/放射輝度」などの様々な「明るさ」に分類されます。これらの様々な「明るさ」の考え方について、前回の「光束/放射束」と同様に、シャワーに例えながら説明をしていきます。
マシンビジョンの領域においても、ワークの照明条件を検討する場合、照度(放射照度)や輝度(放射輝度)などの幾何学的条件の理解が重要で、その条件設定の如何によって抽出できる情報の質の良否が左右されると言っても過言ではありません。

「光量」 (測光量) と 「放射エネルギー」(放射量)

「光」を扱う色々な場面で、例えば、「照明が暗いから光量アップが必要だ」というように、「光量」という言葉をよく使いますね。この場合、一般会話用語の感覚で照明の強弱の程度(すなわち、「光束」のこと)を指していることが多いようですが、技術用語としては適切な使い方ではありません。
技術用語としては、「光量」 とは、”光束 [ lm ] と 時間 [秒] の積 “のことを言い、光量の単位は、
ルーメン・秒 [ lm ・ sec ] です。

バケツでシャワーの水を受ける場合に例えて考えて見ましょう。シャワーの勢いが強ければ短時間でバケツは満杯になります。シャワーの勢いが弱くても、時間をかければバケツは満杯になります。いずれの場合も「水量」はバケツ 1 杯分です。
マシンビジョンの場では、例えばワークをカメラで撮像する場合、レンズの F 値と露光時間(シャッタ速度)の組合せで適正露出を調整します。レンズの F 値を固定して考えた場合、ワークが“明るければ”露光時間を短く(高速シャッタ)、ワークが“暗ければ”、露光時間を長く(低速シャッタ)して適正露出になるようにします。
この場合は、撮像面に入射する光の“強さ”(撮像面照度)は異なりますが、時間積としての「光量(露光量)」は等しくなるように制御され“適正露出”が実現されます。

以上は「光束」と「光量」の関係について述べましたが、「放射束」と「放射エネルギー」についても同様な関係です。
” 放射束 [ W ] と 時間 [ sec ] の積 “「放射エネルギー」 で、その単位は [ W ・ sec ] = [ J ] です。

「照度」 (測光量) と 「放射照度」(放射量)

「照度」という言葉は比較的よく耳にする機会が多いと思います。例えば、教室や事務所の机の上の「明るさ」が読み書きするのに適した明るさになっているか、という場合に「照度」という指標が使われます。
「照度」とは、着目した面がどれだけ明るく照らされているかの度合いを示すもので、その面の 単位面積 [ m2 ] 当りに入射する光束 [ lm ] で定義されます。照度の単位は、その定義から [ lm / m2 ]という次元になりますが、この意味で特別に
ルクス [ lx ] という単位名称が設けられています。

シャワーの水をバケツで受ける場合を考えてみます。このとき、バケツの受け口(面積 A [ m2 ] )に注ぎこまれる水流が照度に相当します。蛇口を開ければバケツの受け口への水流が強くなります。つまり照度が高くなります。
「照度」は、光源の位置から光を受ける面(照度評価面)までの距離に依存します。 ※2 また、照度評価面に対して、どの方向(角度)から光が照射されるのかによっても照度値は変化します。 ※3
更にまた、照度評価面に対して、光を照射する光源が増えるほど照度は高くなります。※4
照度は、例えば我々が読み書きなどの視作業をする場合の「明るさ」の尺度など、極めて多方面で重要な指標として活用されています。

以上は「光束」と「照度」の関係について述べましたが、「放射束」と「放射照度」についても同様な関係です。
”単位面積 [ m2 ] に入射する 放射束 [ W ] “「放射照度」で、その単位は [ W / m2 ] です。

「光束発散度」 (測光量) と 「放射発散度」(放射量)

「光束発散度」は、「照度」に比べると使われる機会は比較的少ないのですが、「照度」とよく似た概念です。「光束発散度」は、光源面や反射面上の着目したエリアの 単位面積 [ m2 ] から放出される 光束 [ lm ] で定義され、その単位は、
[ lm / m2 ] です。

シャワーの例で考えると、シャワーヘッドの着目したエリア(面積 A [ m2 ] )から吹き出される水は色々な方向に放出されていきますが、これら全ての水流が対象になります。つまり、放出される光の方向は、その面が向い合う側の全空間が対象です。

以上は「光束」と「光束発散度」の関係について述べましたが、「放射束」と「放射発散度」についても同様な関係です。
”単位面積 [ m2 ] から放出される 放射束 [ W ] “「放射発散度」で、その単位は[ W / m2 ]です。

照度と光束発散度の関係

以上からわかりますように、光束発散度と照度は、単位の次元も [ lm / m2 ] で同じ、また放射発散度と放射照度の単位も
[ W / m2 ] で同じです。つまり、単位面積当りの光束、単位面積当りの放射束ということでは全く同じ概念なのですが、異なるのは光の進行方向が逆ということです。照度、放射照度では光が面に向かって入射するのに対して、光束発散度、放射発散度では光がその面から射出しています。

まとめ

回は、各種の幾何学的条件によって定義される「放射量」や「測光量」の内、「光量と放射エネルギー」、「照度と放射照度」、「光束発散度と放射発散度」について説明しました。 次回は、「光度と放射強度」、「輝度と放射輝度」についてお話する予定です。

注釈

※1 センサー測定量

「器械の眼」として採用されたセンサーがどれだけの「明るさ」の刺激を受けたか、を表わす量として、CCS 社では、「センサー測定量」という用語を設定しています。この用語は、まだ世の中で一般に使用されているものではありませんが、ここでは「人間の眼」の特性に基く「測光量」に対応するものとして使用します。詳しくは次回に説明します。

※2 照度の距離依存性

バケツの受け口からシャワーヘッドまでの距離を変えるとどうでしょう。シャワーから吹き出される水は発散しているとすれば、距離が近いほど、バケツの受け口には多くの水流が飛び込みます。すなわち、光源(発散性)を近づけた方がその面の照度は高くなります。

※3 斜め入射光特性 ・・・・・照度の入射角度依存性

シャワーをバケツの真上から注ぎこむ場合と、斜め θ 方向から注ぎ込む場合を比較すると、斜め方向からの方がバケツに入る水は少なくなります。(シャワーヘッドとバケツの距離は等しく角度だけが異なるという条件で)極端な場合、真横からの場合は(重力の影響が無ければ)バケツに水は入りません。つまり、その面への光の入射角度が大きくなるほど照度は低下します。

※4 照度の加法性

別の方向(角度 θ2 )からシャワーヘッドをもう一つ追加すればどうでしょう。両方のシャワーヘッドからの水流が別方向から同時にバケツの受け口に入ります。つまり、電球 1 個で照明したよりも 2 個で照明した方が照度は高くなります。

放射量 と 測光量(その3)
「明るさ」にも色々ある

光と色の話 第一部

光と色の話 第一部

第6回 放射量 と 測光量(その3)

~「明るさ」にも色々ある~

はじめに

これまで「明るい」、「暗い」ということはどういうことか? ということについて述べてきました。これは、光のディテクター・・・「人間の眼」や「機械の眼」・・・が、主に波長軸の視点(分光的視点)から、「光」によってどれだけ刺激を受けるか、ということが説明の中心でした。
一方、我々が「明るさ」を云々する場合は、それ以外の要素についても考慮しなければならない場合が多くあります。
例えば、机上での読み書きなどの作業をする場合の「明るさ」の場合と、テレビ画面や信号灯の「明るさ」、などの場合は異なった条件で「明るさ」を評価しなければなりません。具体的には、前者の場合は「照度」、後者の場合は「輝度」で評価することになります。

幾何学的条件の違いによる「明るさ」の分類

これらの「照度」や「輝度」という概念は、「光」に対する「人間の眼」と「機械の眼」というような“分光的な(波長の)” 要素とは別のものであって“幾何学的な“ 光の進行方向や角度や面積の要素が関係した評価の違いによるものです。
ここでは、「人間の眼」の分光特性をベースに定義された「測光量(照度や輝度など)」に対しての幾何学的な分類を主体に説明していきます。純粋物理量としての「放射量(放射照度や放射輝度など)」や「機械の眼」のセンサー測定量 ※1 については、分光的条件が異なるだけで、幾何学的条件については共通しています。
一口で「明るさ」といっても、分光的な観点からは、測光量と放射量(更にはセンサー測定量)に分類され、また幾何学的な観点からは「光束/放射束」、「光量/放射エネルギー」、「照度/放射照度」、「光束発散度/放射発散度」、「光度/放射強度」、「輝度/放射輝度」などの様々な「明るさ」に分類されます。これらの様々な「明るさ」の考え方について、前回の「光束/放射束」と同様に、シャワーに例えながら説明をしていきます。
マシンビジョンの領域においても、ワークの照明条件を検討する場合、照度(放射照度)や輝度(放射輝度)などの幾何学的条件の理解が重要で、その条件設定の如何によって抽出できる情報の質の良否が左右されると言っても過言ではありません。

「光量」 (測光量) と 「放射エネルギー」(放射量)

「光」を扱う色々な場面で、例えば、「照明が暗いから光量アップが必要だ」というように、「光量」という言葉をよく使いますね。この場合、一般会話用語の感覚で照明の強弱の程度(すなわち、「光束」のこと)を指していることが多いようですが、技術用語としては適切な使い方ではありません。
技術用語としては、「光量」 とは、”光束 [ lm ] と 時間 [秒] の積 “のことを言い、光量の単位は、
ルーメン・秒 [ lm ・ sec ] です。

バケツでシャワーの水を受ける場合に例えて考えて見ましょう。シャワーの勢いが強ければ短時間でバケツは満杯になります。シャワーの勢いが弱くても、時間をかければバケツは満杯になります。いずれの場合も「水量」はバケツ 1 杯分です。
マシンビジョンの場では、例えばワークをカメラで撮像する場合、レンズの F 値と露光時間(シャッタ速度)の組合せで適正露出を調整します。レンズの F 値を固定して考えた場合、ワークが“明るければ”露光時間を短く(高速シャッタ)、ワークが“暗ければ”、露光時間を長く(低速シャッタ)して適正露出になるようにします。
この場合は、撮像面に入射する光の“強さ”(撮像面照度)は異なりますが、時間積としての「光量(露光量)」は等しくなるように制御され“適正露出”が実現されます。

以上は「光束」と「光量」の関係について述べましたが、「放射束」と「放射エネルギー」についても同様な関係です。
” 放射束 [ W ] と 時間 [ sec ] の積 “「放射エネルギー」 で、その単位は [ W ・ sec ] = [ J ] です。

「照度」 (測光量) と 「放射照度」(放射量)

「照度」という言葉は比較的よく耳にする機会が多いと思います。例えば、教室や事務所の机の上の「明るさ」が読み書きするのに適した明るさになっているか、という場合に「照度」という指標が使われます。
「照度」とは、着目した面がどれだけ明るく照らされているかの度合いを示すもので、その面の 単位面積 [ m2 ] 当りに入射する光束 [ lm ] で定義されます。照度の単位は、その定義から [ lm / m2 ]という次元になりますが、この意味で特別に
ルクス [ lx ] という単位名称が設けられています。

シャワーの水をバケツで受ける場合を考えてみます。このとき、バケツの受け口(面積 A [ m2 ] )に注ぎこまれる水流が照度に相当します。蛇口を開ければバケツの受け口への水流が強くなります。つまり照度が高くなります。
「照度」は、光源の位置から光を受ける面(照度評価面)までの距離に依存します。 ※2 また、照度評価面に対して、どの方向(角度)から光が照射されるのかによっても照度値は変化します。 ※3
更にまた、照度評価面に対して、光を照射する光源が増えるほど照度は高くなります。※4
照度は、例えば我々が読み書きなどの視作業をする場合の「明るさ」の尺度など、極めて多方面で重要な指標として活用されています。

以上は「光束」と「照度」の関係について述べましたが、「放射束」と「放射照度」についても同様な関係です。
”単位面積 [ m2 ] に入射する 放射束 [ W ] “「放射照度」で、その単位は [ W / m2 ] です。

「光束発散度」 (測光量) と 「放射発散度」(放射量)

「光束発散度」は、「照度」に比べると使われる機会は比較的少ないのですが、「照度」とよく似た概念です。「光束発散度」は、光源面や反射面上の着目したエリアの 単位面積 [ m2 ] から放出される 光束 [ lm ] で定義され、その単位は、
[ lm / m2 ] です。

シャワーの例で考えると、シャワーヘッドの着目したエリア(面積 A [ m2 ] )から吹き出される水は色々な方向に放出されていきますが、これら全ての水流が対象になります。つまり、放出される光の方向は、その面が向い合う側の全空間が対象です。

以上は「光束」と「光束発散度」の関係について述べましたが、「放射束」と「放射発散度」についても同様な関係です。
”単位面積 [ m2 ] から放出される 放射束 [ W ] “「放射発散度」で、その単位は[ W / m2 ]です。

照度と光束発散度の関係

以上からわかりますように、光束発散度と照度は、単位の次元も [ lm / m2 ] で同じ、また放射発散度と放射照度の単位も
[ W / m2 ] で同じです。つまり、単位面積当りの光束、単位面積当りの放射束ということでは全く同じ概念なのですが、異なるのは光の進行方向が逆ということです。照度、放射照度では光が面に向かって入射するのに対して、光束発散度、放射発散度では光がその面から射出しています。

まとめ

回は、各種の幾何学的条件によって定義される「放射量」や「測光量」の内、「光量と放射エネルギー」、「照度と放射照度」、「光束発散度と放射発散度」について説明しました。 次回は、「光度と放射強度」、「輝度と放射輝度」についてお話する予定です。

注釈

※1 センサー測定量

「器械の眼」として採用されたセンサーがどれだけの「明るさ」の刺激を受けたか、を表わす量として、CCS 社では、「センサー測定量」という用語を設定しています。この用語は、まだ世の中で一般に使用されているものではありませんが、ここでは「人間の眼」の特性に基く「測光量」に対応するものとして使用します。詳しくは次回に説明します。

※2 照度の距離依存性

バケツの受け口からシャワーヘッドまでの距離を変えるとどうでしょう。シャワーから吹き出される水は発散しているとすれば、距離が近いほど、バケツの受け口には多くの水流が飛び込みます。すなわち、光源(発散性)を近づけた方がその面の照度は高くなります。

※3 斜め入射光特性 ・・・・・照度の入射角度依存性

シャワーをバケツの真上から注ぎこむ場合と、斜め θ 方向から注ぎ込む場合を比較すると、斜め方向からの方がバケツに入る水は少なくなります。(シャワーヘッドとバケツの距離は等しく角度だけが異なるという条件で)極端な場合、真横からの場合は(重力の影響が無ければ)バケツに水は入りません。つまり、その面への光の入射角度が大きくなるほど照度は低下します。

※4 照度の加法性

別の方向(角度 θ2 )からシャワーヘッドをもう一つ追加すればどうでしょう。両方のシャワーヘッドからの水流が別方向から同時にバケツの受け口に入ります。つまり、電球 1 個で照明したよりも 2 個で照明した方が照度は高くなります。

放射量 と 測光量(その3)
「明るさ」にも色々ある

Q1.参考になりましたか?
Q2.次回連載を期待されますか?

アンケートにご協力いただきありがとうございました。