光と色の話 第一部
第16回 混色(その 1 )
・・・・・同時加法混色 と 減法混色・・・・・
はじめに
ある色とある色を混ぜ合わして別の色を作ることを混色と言います。子供の頃、水彩絵の具の黄色に赤を混ぜてオレンジ色を作ったりしたことは誰しも経験したことがあるでしょう。これは最も身近な混色の例で、「減法混色」と呼ばれる混色方式です。混色にはその他、「同時加法混色」、「継時混色」、「並置混色」、などの混色方式があります≪※1≫。
それぞれ、混色のやり方は異なってはいますが、ヒトがどのようにして「色」を認識しているのかという、これまでお話してきました「視覚」の原理をベースにお考えいただければ、統一的に理解し易いでしょう。本連載の第11~15回(特に第11回)を参照しながらお読みいただければと思います。
「混色」の分類
個々の混色方式の具体的内容は次回以降も含めて以下に説明していきますが、
先ず、「混色」の方式を大きく分類すると、
「減法混色」と「加法混色」に分けることができます。減法混色は、水彩絵の具の他、カラー印刷や銀塩フィルムによるネガカラー写真など、身の周りの多くのものに応用されています。加法混色の方は少し複雑です。減法混色に素直に対立する概念としての加法混色は「同時加法混色」と呼ばれるもので、異なる色の光で同一エリアを同時に照明したときの混色です。「加法混色」にはその他に「中間混色」と呼ばれるものが含まれます。この「中間混色」は更に「継時混色」と「並置混色」に分けられます≪※1≫。「継時混色」は、例えば、コマの円周方向に異なる色を塗って回転させたような場合に生ずる混色です。また、「並置混色」はカラーテレビの画面などに使われている混色方式で、異なる色の非常に細かい多数のエリア(画素)が集積したような時に生じる混色です。
「色光の三原色(加法混色)」と「色料の三原色
(減法混色)」
三原色を混ぜ合わせると、様々な色を作り出せるということは多くの人がご存知です。ところが、混色の方式によって三原色が異なるということは、意外に理解されていない場合があるようです。
加法混色の三原色は、色光の三原色と言われることもあり、青 ( Blue )、
緑 ( Green )、赤 ( Red )の三色です。英語の頭文字から、それぞれ
B、G、Rと略称されることも多くあります。
減法混色の三原色は、色料の三原色と言われることもあり、 黄( Yellow )、 赤紫( Magenta )≪※2≫、 青緑( Cyan )≪※3≫の三色です。
英語の頭文字から、それぞれ Y 、M 、C と略称されることも多く有ります≪※4≫。
同時加法混色の原理
加法混色を説明する図として、右のような図を見た人も多いと思います。
赤 ( R )、緑 ( G )、青 ( B )の色光を発するプロジェクター3台からの光を真っ暗なスクリーン上に投射すると、それぞれの色光の重なり方によって「新しい色」が作り出されます。
赤 ( R ) と 緑 ( G )の光が等量重なり合うと黄( Y )になり、緑 ( G ) と 青 ( B )の光が等量重なり合うと青緑( C )になり、青( B ) と 赤 ( R )の光が等量重なり合うと赤紫 ( M )になります。更にまた、3 原色 ( B 、G 、R ) の光が等量重なり合うと白( W )になる、というものです。
混色の比率(スクリーン上の放射照度比)を変えれば、その比率に応じて色味は連続的に変化します。なぜこのような結果になるのでしょうか?その考え方を以下に模式的に説明します。
青色光 B と 緑色光 G の加法混色
青色光 B の分光分布は(模式的には)可視域短波長域にエネルギーが集中し、中波長域、長波長域にはエネルギーを持っていません。緑色光 G の分光分布は、可視域中波長域にエネルギーが集中し、短波長域、長波長域にはエネルギーを持っていません。これらの色光を同一エリア上に等しい放射照度で照射すれば、そのエリアには短波長域および中波長域の光が同時に存在することになります。この光がスクリーン面で反射して眼に入射する訳ですから、(可視域短波長域に主感度をもつ)S 錐体と(中波長域に主感度をもつ)M 錐体が同時に同程度の刺激を受けることになりますので、 「青緑色( Cyan )」と判断することになります。( B + G = C )
青色光と緑色光の混合比(放射照度比)を変えると、それに応じて S 錐体と M 錐体が受ける刺激の強さが変わりますので脳が認識する色味もその混合比率に応じて、青( B )と緑( G )の間で変化します。
緑色光 G と 赤色光 R の加法混色
緑色光 G と赤色光 Rを同一エリア上に等しい放射照度で照射すれば、上記と同様に考えて、そのエリアには中波長域と長波長域の光が同時に存在することになります。従って、この混合光が M 錐体と(長波長域に主感度をもつ)L 錐体を同時に同程度に刺激することになり、脳は「 黄色 ( Yellow ) 」と判断することになります。( G + R = Y )
赤色光 R と 青色光 B の加法混色
赤色光 R と青色光 B を同一エリア上に等しい放射照度で照射すれば、上記と同様に考えて、そのエリアには長波長域と短波長域の光が同時に存在することになります。従って、この混合光が L 錐体と S 錐体を同時に同程度に刺激することになり、脳は「赤紫色 ( Magenta ) 」と判断することになります。( R + B = M )
三原色(青色光 B 、緑色光 G 、赤色光 R )の加法混色
三原色 ( B 、G 、R ) を同一エリアに等しい放射照度で照射すれば、そのエリアには、短波長、中波長、長波長の光が同時にほぼ均等に存在することになります。
従って S 、M 、L 錐体がほぼ等しい刺激を受けることになり、脳は「白 ( White ) 」とと判断することになります。
( B + G + R = W )
このようにして、三原色( B 、G 、R )の色光の混合比を変えることによって様々な色を加法混色によって作り出すことができます。
同時加法混色は、異なる色光を同一エリアに同時に照射しますので、そのエリアでは単一の色光よりも色光のエネルギーは増加します(放射照度は高くなります)。これより、色光の混色を「加法」混色と呼ぶ訳です。
減法混色の原理
減法混色を説明する図として、Y 、M 、C の三色の円形色フィルタを重ねた、右のような図をよく見かけます。
黄 ( Y ) と青緑 ( C ) を等量混色すると緑 ( G ) になり、青緑 ( C ) と赤紫 ( M ) を等量混色すると青 ( B ) になり、 赤紫 ( M ) と黄 ( Y ) を等量混色すると赤 ( R ) になります。更にまた、
三原色 ( Y 、M 、C ) を等量混色すると黒 ( K ) になる、というものです。減法混色の三原色 ( Y 、M 、C ) を混色するとなぜこのような結果になるのでしょうか?
三原色の色フィルタ ( Y 、M 、C ) の分光透過率特性は、模式的に示すと右図の様になっています。
黄フィルタ ( Y ) は、可視域短波長成分(青に見える成分)を吸収し、中波長および長波長成分(緑および赤に見える成分)を透過します。
マゼンタフィルタ ( M ) は、可視域中波長成分(緑に見える成分)を吸収し、短波長および長波長成分(青および赤に見える成分)を透過します。
シアンフィルタ ( C ) は、可視域長波長成分(赤く見える成分)を吸収し、中波長および短波長成分(緑および青に見える成分)を透過します。
可視域全体に亘ってエネルギーが概ね均等に分布している白色光 ( W ) がこれらの色フィルタの重ね合わせに入射する場合を考えます。
シアンフィルタ ( C ) と黄フィルタ ( Y ) の減法混色
白色光をシアンフィルタ ( C ) に入射させると、長波長光 ( R ) は吸収され、単波長光 ( B ) と中波長光 ( G ) が透過されます。この透過光( B + G )が次の黄フィルタに入射することになります。黄フィルタはシアンフィルタ ( C ) からの透過光の内、短波長光 ( B ) を吸収し、中波長光 ( G ) を透過します。
黄フィルタ ( Y ) は長波長光 ( R ) も透過するのですが長波長成分 ( R ) は既にシアンフィルタ ( C ) でカットされていますので、結局、両フィルタを重ねたときに透過するのは、共通に透過する波長域、すなわち中波長域の光 ( G ) だけとなります。その結果、M 錐体が強い刺激を受けるため、「緑色 ( G ) 」に見えることになります。 ( C + Y = G )
黄フィルタ ( Y ) とマゼンタフィルタ ( M ) の減法混色
考え方は上記のシアンフィルタ ( C ) と黄フィルタ ( Y ) の重ね合わせの場合と全く同じです。白色光が両者を共通に透過する波長域は、長波長域 ( R ) ですので、L 錐体が強く刺激され、「赤色 ( R ) 」に見えることになります。
マゼンタフィルタ ( M ) とシアンフィルタ ( C ) の減法混色
同様に、白色光が両者を共通に透過する波長域は、短波長域 ( B ) ですので、S 錐体が強く刺激され、「青色 ( B ) 」に見えることになります。
三原色( Y 、M 、C )フィルタの減法混色
Y 、M 、C の三原色フィルタを重ねると、入射した白色光の共通した透過波長域が無くなってしまうため、「真っ暗」すなわち「黒 ( K ) 」になってしまいます。
減法混色の場合、このように、フィルタへの入射光は、フィルタを通過する度にどんどん“削られて”いきます。(右図では矢印の大きさでそれを表現しています。) このことからフィルタやインクなどの色料による混色のことを「減法」混色と呼ぶ訳です。
上記の説明は、三原色のフィルタ ( Y 、M 、C ) の濃度が同等の場合で説明しましたが、それぞれのフィルタの濃度が異なる場合には、それらの濃度に依存する混色比率によって混色結果は原色間で連続的に変化します。
注釈
≪※1≫ 中間混色
「継時混色」と「並置混色」をあわせて、「中間混色」と呼ぶことがあります。
中間混色については、次回に詳しくお話します。
「継時混色」は中間混色の 1 種であることを明確に示すために「継時中間混色」と表現されることがあります。また、代表的な例が回転するコマであることから「回転混色」とも呼ばれることもあります。
「並置混色」は中間混色の 1 種であることを明確に示すために「並置中間混色」と表現されることがあります。また、「併置」という文字が使われる場合もあります。
≪※2≫ マゼンタ(Magenta)
「マゼンタ」という色名は、日本語の一般会話ではあまり馴染がない言葉です。マゼンタという色名の語源は、イタリアのミラノの西にある町の名前に由来していると言われています。 19 世紀半ばにイタリア統一軍(サルディニア連合軍)がオーストリア軍を打ち破った「マゼンタの戦い」と同じ頃に、鮮やかなピンク色の有機染料が発見され、その染料に「マゼンタ」という名前がついたということです。この「マゼ ンタ色」に対応する日本語としては、「赤」とか「黄」というような単独の色名が無く、「赤紫」ということになるのですが、呼び名としては少し長たらしいこともあって、外国語の「マゼンタ」がそのまま使用されるようになったようです。
≪※3≫ シアン( Cyan )
「シアン」という色名も、「マゼンタ」と同様、日本語の一般会話ではあまり馴染がありません。「シアン」の語源は古代ギリシャ語で暗い青を意味する cyanos という言葉からきているそうです。「マゼンタ」の場合と同様に、「シアン」に直接対応する日本語の単独の色名が存在せず、「青緑」という少し長い色名になるため、外国語の「シアン」がそのまま普及したものと思われます。青酸カリは正式にはシアン化カリウムと呼ばれますが、その結晶は青緑色をしています。
≪※4≫ 減法混色の三原色の呼び方に関する注意
カラー印刷用の三原色の版のことを正確には黄版、マゼンタ版(または赤紫版)、シアン版(または青緑版)と呼ぶべきところです。しかし、印刷業界等では、Y 、M 、C による版のことを、それぞれ「黄版」、「赤版(または紅版)」、「青版(または藍版)」と呼ぶ習慣がありますので注意が必要です。日本語には「 Yellow 」に直接対応する「黄」という色名はあるのですが、「マゼンタ」、「シアン」に直接対応する日本語色名が無く、呼び名としては長たらしいため、赤っぽく見えるので「赤(紅)版」、青っぽく見えるので「青(藍)版」と呼ぶようになったものと思われます。この背景として、日本では古来より、新緑の季節を「青葉の季節」と言ったり、田植え直後の水田を「青田」と言ったりするように、「青」と「緑」をあまり区別してこなかったという言語文化があるようです。
光と色の話 第一部
第16回 混色(その 1 )
・・・・・同時加法混色 と 減法混色・・・・・
はじめに
ある色とある色を混ぜ合わして別の色を作ることを混色と言います。子供の頃、水彩絵の具の黄色に赤を混ぜてオレンジ色を作ったりしたことは誰しも経験したことがあるでしょう。これは最も身近な混色の例で、「減法混色」と呼ばれる混色方式です。混色にはその他、「同時加法混色」、「継時混色」、「並置混色」、などの混色方式があります≪※1≫。
それぞれ、混色のやり方は異なってはいますが、ヒトがどのようにして「色」を認識しているのかという、これまでお話してきました「視覚」の原理をベースにお考えいただければ、統一的に理解し易いでしょう。本連載の第11~15回(特に第11回)を参照しながらお読みいただければと思います。
「混色」の分類
個々の混色方式の具体的内容は次回以降も含めて以下に説明していきますが、
先ず、「混色」の方式を大きく分類すると、
「減法混色」と「加法混色」に分けることができます。減法混色は、水彩絵の具の他、カラー印刷や銀塩フィルムによるネガカラー写真など、身の周りの多くのものに応用されています。加法混色の方は少し複雑です。減法混色に素直に対立する概念としての加法混色は「同時加法混色」と呼ばれるもので、異なる色の光で同一エリアを同時に照明したときの混色です。「加法混色」にはその他に「中間混色」と呼ばれるものが含まれます。この「中間混色」は更に「継時混色」と「並置混色」に分けられます≪※1≫。「継時混色」は、例えば、コマの円周方向に異なる色を塗って回転させたような場合に生ずる混色です。また、「並置混色」はカラーテレビの画面などに使われている混色方式で、異なる色の非常に細かい多数のエリア(画素)が集積したような時に生じる混色です。
「色光の三原色(加法混色)」と「色料の三原色
(減法混色)」
三原色を混ぜ合わせると、様々な色を作り出せるということは多くの人がご存知です。ところが、混色の方式によって三原色が異なるということは、意外に理解されていない場合があるようです。
加法混色の三原色は、色光の三原色と言われることもあり、青 ( Blue )、
緑 ( Green )、赤 ( Red )の三色です。英語の頭文字から、それぞれ
B、G、Rと略称されることも多くあります。
減法混色の三原色は、色料の三原色と言われることもあり、 黄( Yellow )、 赤紫( Magenta )≪※2≫、 青緑( Cyan )≪※3≫の三色です。
英語の頭文字から、それぞれ Y 、M 、C と略称されることも多く有ります≪※4≫。
同時加法混色の原理
加法混色を説明する図として、右のような図を見た人も多いと思います。
赤 ( R )、緑 ( G )、青 ( B )の色光を発するプロジェクター3台からの光を真っ暗なスクリーン上に投射すると、それぞれの色光の重なり方によって「新しい色」が作り出されます。
赤 ( R ) と 緑 ( G )の光が等量重なり合うと黄( Y )になり、緑 ( G ) と 青 ( B )の光が等量重なり合うと青緑( C )になり、青( B ) と 赤 ( R )の光が等量重なり合うと赤紫 ( M )になります。更にまた、3 原色 ( B 、G 、R ) の光が等量重なり合うと白( W )になる、というものです。
混色の比率(スクリーン上の放射照度比)を変えれば、その比率に応じて色味は連続的に変化します。なぜこのような結果になるのでしょうか?その考え方を以下に模式的に説明します。
青色光 B と 緑色光 G の加法混色
青色光 B の分光分布は(模式的には)可視域短波長域にエネルギーが集中し、中波長域、長波長域にはエネルギーを持っていません。緑色光 G の分光分布は、可視域中波長域にエネルギーが集中し、短波長域、長波長域にはエネルギーを持っていません。これらの色光を同一エリア上に等しい放射照度で照射すれば、そのエリアには短波長域および中波長域の光が同時に存在することになります。この光がスクリーン面で反射して眼に入射する訳ですから、(可視域短波長域に主感度をもつ)S 錐体と(中波長域に主感度をもつ)M 錐体が同時に同程度の刺激を受けることになりますので、 「青緑色( Cyan )」と判断することになります。( B + G = C )
青色光と緑色光の混合比(放射照度比)を変えると、それに応じて S 錐体と M 錐体が受ける刺激の強さが変わりますので脳が認識する色味もその混合比率に応じて、青( B )と緑( G )の間で変化します。
緑色光 G と 赤色光 R の加法混色
緑色光 G と赤色光 Rを同一エリア上に等しい放射照度で照射すれば、上記と同様に考えて、そのエリアには中波長域と長波長域の光が同時に存在することになります。従って、この混合光が M 錐体と(長波長域に主感度をもつ)L 錐体を同時に同程度に刺激することになり、脳は「 黄色 ( Yellow ) 」と判断することになります。( G + R = Y )
赤色光 R と 青色光 B の加法混色
赤色光 R と青色光 B を同一エリア上に等しい放射照度で照射すれば、上記と同様に考えて、そのエリアには長波長域と短波長域の光が同時に存在することになります。従って、この混合光が L 錐体と S 錐体を同時に同程度に刺激することになり、脳は「赤紫色 ( Magenta ) 」と判断することになります。( R + B = M )
三原色(青色光 B 、緑色光 G 、赤色光 R )の加法混色
三原色 ( B 、G 、R ) を同一エリアに等しい放射照度で照射すれば、そのエリアには、短波長、中波長、長波長の光が同時にほぼ均等に存在することになります。
従って S 、M 、L 錐体がほぼ等しい刺激を受けることになり、脳は「白 ( White ) 」とと判断することになります。
( B + G + R = W )
このようにして、三原色( B 、G 、R )の色光の混合比を変えることによって様々な色を加法混色によって作り出すことができます。
同時加法混色は、異なる色光を同一エリアに同時に照射しますので、そのエリアでは単一の色光よりも色光のエネルギーは増加します(放射照度は高くなります)。これより、色光の混色を「加法」混色と呼ぶ訳です。
減法混色の原理
減法混色を説明する図として、Y 、M 、C の三色の円形色フィルタを重ねた、右のような図をよく見かけます。
黄 ( Y ) と青緑 ( C ) を等量混色すると緑 ( G ) になり、青緑 ( C ) と赤紫 ( M ) を等量混色すると青 ( B ) になり、 赤紫 ( M ) と黄 ( Y ) を等量混色すると赤 ( R ) になります。更にまた、
三原色 ( Y 、M 、C ) を等量混色すると黒 ( K ) になる、というものです。減法混色の三原色 ( Y 、M 、C ) を混色するとなぜこのような結果になるのでしょうか?
三原色の色フィルタ ( Y 、M 、C ) の分光透過率特性は、模式的に示すと右図の様になっています。
黄フィルタ ( Y ) は、可視域短波長成分(青に見える成分)を吸収し、中波長および長波長成分(緑および赤に見える成分)を透過します。
マゼンタフィルタ ( M ) は、可視域中波長成分(緑に見える成分)を吸収し、短波長および長波長成分(青および赤に見える成分)を透過します。
シアンフィルタ ( C ) は、可視域長波長成分(赤く見える成分)を吸収し、中波長および短波長成分(緑および青に見える成分)を透過します。
可視域全体に亘ってエネルギーが概ね均等に分布している白色光 ( W ) がこれらの色フィルタの重ね合わせに入射する場合を考えます。
シアンフィルタ ( C ) と黄フィルタ ( Y ) の減法混色
白色光をシアンフィルタ ( C ) に入射させると、長波長光 ( R ) は吸収され、単波長光 ( B ) と中波長光 ( G ) が透過されます。この透過光( B + G )が次の黄フィルタに入射することになります。黄フィルタはシアンフィルタ ( C ) からの透過光の内、短波長光 ( B ) を吸収し、中波長光 ( G ) を透過します。
黄フィルタ ( Y ) は長波長光 ( R ) も透過するのですが長波長成分 ( R ) は既にシアンフィルタ ( C ) でカットされていますので、結局、両フィルタを重ねたときに透過するのは、共通に透過する波長域、すなわち中波長域の光 ( G ) だけとなります。その結果、M 錐体が強い刺激を受けるため、「緑色 ( G ) 」に見えることになります。 ( C + Y = G )
黄フィルタ ( Y ) とマゼンタフィルタ ( M ) の減法混色
考え方は上記のシアンフィルタ ( C ) と黄フィルタ ( Y ) の重ね合わせの場合と全く同じです。白色光が両者を共通に透過する波長域は、長波長域 ( R ) ですので、L 錐体が強く刺激され、「赤色 ( R ) 」に見えることになります。
マゼンタフィルタ ( M ) とシアンフィルタ ( C ) の減法混色
同様に、白色光が両者を共通に透過する波長域は、短波長域 ( B ) ですので、S 錐体が強く刺激され、「青色 ( B ) 」に見えることになります。
三原色( Y 、M 、C )フィルタの減法混色
Y 、M 、C の三原色フィルタを重ねると、入射した白色光の共通した透過波長域が無くなってしまうため、「真っ暗」すなわち「黒 ( K ) 」になってしまいます。
減法混色の場合、このように、フィルタへの入射光は、フィルタを通過する度にどんどん“削られて”いきます。(右図では矢印の大きさでそれを表現しています。) このことからフィルタやインクなどの色料による混色のことを「減法」混色と呼ぶ訳です。
上記の説明は、三原色のフィルタ ( Y 、M 、C ) の濃度が同等の場合で説明しましたが、それぞれのフィルタの濃度が異なる場合には、それらの濃度に依存する混色比率によって混色結果は原色間で連続的に変化します。
注釈
≪※1≫ 中間混色
「継時混色」と「並置混色」をあわせて、「中間混色」と呼ぶことがあります。
中間混色については、次回に詳しくお話します。
「継時混色」は中間混色の 1 種であることを明確に示すために「継時中間混色」と表現されることがあります。また、代表的な例が回転するコマであることから「回転混色」とも呼ばれることもあります。
「並置混色」は中間混色の 1 種であることを明確に示すために「並置中間混色」と表現されることがあります。また、「併置」という文字が使われる場合もあります。
≪※2≫ マゼンタ(Magenta)
「マゼンタ」という色名は、日本語の一般会話ではあまり馴染がない言葉です。マゼンタという色名の語源は、イタリアのミラノの西にある町の名前に由来していると言われています。 19 世紀半ばにイタリア統一軍(サルディニア連合軍)がオーストリア軍を打ち破った「マゼンタの戦い」と同じ頃に、鮮やかなピンク色の有機染料が発見され、その染料に「マゼンタ」という名前がついたということです。この「マゼ ンタ色」に対応する日本語としては、「赤」とか「黄」というような単独の色名が無く、「赤紫」ということになるのですが、呼び名としては少し長たらしいこともあって、外国語の「マゼンタ」がそのまま使用されるようになったようです。
≪※3≫ シアン( Cyan )
「シアン」という色名も、「マゼンタ」と同様、日本語の一般会話ではあまり馴染がありません。「シアン」の語源は古代ギリシャ語で暗い青を意味する cyanos という言葉からきているそうです。「マゼンタ」の場合と同様に、「シアン」に直接対応する日本語の単独の色名が存在せず、「青緑」という少し長い色名になるため、外国語の「シアン」がそのまま普及したものと思われます。青酸カリは正式にはシアン化カリウムと呼ばれますが、その結晶は青緑色をしています。
≪※4≫ 減法混色の三原色の呼び方に関する注意
カラー印刷用の三原色の版のことを正確には黄版、マゼンタ版(または赤紫版)、シアン版(または青緑版)と呼ぶべきところです。しかし、印刷業界等では、Y 、M 、C による版のことを、それぞれ「黄版」、「赤版(または紅版)」、「青版(または藍版)」と呼ぶ習慣がありますので注意が必要です。日本語には「 Yellow 」に直接対応する「黄」という色名はあるのですが、「マゼンタ」、「シアン」に直接対応する日本語色名が無く、呼び名としては長たらしいため、赤っぽく見えるので「赤(紅)版」、青っぽく見えるので「青(藍)版」と呼ぶようになったものと思われます。この背景として、日本では古来より、新緑の季節を「青葉の季節」と言ったり、田植え直後の水田を「青田」と言ったりするように、「青」と「緑」をあまり区別してこなかったという言語文化があるようです。
光と色の話 第一部
第16回 混色(その 1 )
・・・・・同時加法混色 と 減法混色・・・・・
はじめに
ある色とある色を混ぜ合わして別の色を作ることを混色と言います。子供の頃、水彩絵の具の黄色に赤を混ぜてオレンジ色を作ったりしたことは誰しも経験したことがあるでしょう。これは最も身近な混色の例で、「減法混色」と呼ばれる混色方式です。混色にはその他、「同時加法混色」、「継時混色」、「並置混色」、などの混色方式があります≪※1≫。
それぞれ、混色のやり方は異なってはいますが、ヒトがどのようにして「色」を認識しているのかという、これまでお話してきました「視覚」の原理をベースにお考えいただければ、統一的に理解し易いでしょう。本連載の第11~15回(特に第11回)を参照しながらお読みいただければと思います。
「混色」の分類
個々の混色方式の具体的内容は次回以降も含めて以下に説明していきますが、
先ず、「混色」の方式を大きく分類すると、
「減法混色」と「加法混色」に分けることができます。減法混色は、水彩絵の具の他、カラー印刷や銀塩フィルムによるネガカラー写真など、身の周りの多くのものに応用されています。加法混色の方は少し複雑です。減法混色に素直に対立する概念としての加法混色は「同時加法混色」と呼ばれるもので、異なる色の光で同一エリアを同時に照明したときの混色です。「加法混色」にはその他に「中間混色」と呼ばれるものが含まれます。この「中間混色」は更に「継時混色」と「並置混色」に分けられます≪※1≫。「継時混色」は、例えば、コマの円周方向に異なる色を塗って回転させたような場合に生ずる混色です。また、「並置混色」はカラーテレビの画面などに使われている混色方式で、異なる色の非常に細かい多数のエリア(画素)が集積したような時に生じる混色です。
「色光の三原色(加法混色)」と「色料の三原色
(減法混色)」
三原色を混ぜ合わせると、様々な色を作り出せるということは多くの人がご存知です。ところが、混色の方式によって三原色が異なるということは、意外に理解されていない場合があるようです。
加法混色の三原色は、色光の三原色と言われることもあり、青 ( Blue )、
緑 ( Green )、赤 ( Red )の三色です。英語の頭文字から、それぞれ
B、G、Rと略称されることも多くあります。
減法混色の三原色は、色料の三原色と言われることもあり、 黄( Yellow )、 赤紫( Magenta )≪※2≫、 青緑( Cyan )≪※3≫の三色です。
英語の頭文字から、それぞれ Y 、M 、C と略称されることも多く有ります≪※4≫。
同時加法混色の原理
加法混色を説明する図として、右のような図を見た人も多いと思います。
赤 ( R )、緑 ( G )、青 ( B )の色光を発するプロジェクター3台からの光を真っ暗なスクリーン上に投射すると、それぞれの色光の重なり方によって「新しい色」が作り出されます。
赤 ( R ) と 緑 ( G )の光が等量重なり合うと黄( Y )になり、緑 ( G ) と 青 ( B )の光が等量重なり合うと青緑( C )になり、青( B ) と 赤 ( R )の光が等量重なり合うと赤紫 ( M )になります。更にまた、3 原色 ( B 、G 、R ) の光が等量重なり合うと白( W )になる、というものです。
混色の比率(スクリーン上の放射照度比)を変えれば、その比率に応じて色味は連続的に変化します。なぜこのような結果になるのでしょうか?その考え方を以下に模式的に説明します。
青色光 B と 緑色光 G の加法混色
青色光 B の分光分布は(模式的には)可視域短波長域にエネルギーが集中し、中波長域、長波長域にはエネルギーを持っていません。緑色光 G の分光分布は、可視域中波長域にエネルギーが集中し、短波長域、長波長域にはエネルギーを持っていません。これらの色光を同一エリア上に等しい放射照度で照射すれば、そのエリアには短波長域および中波長域の光が同時に存在することになります。この光がスクリーン面で反射して眼に入射する訳ですから、(可視域短波長域に主感度をもつ)S 錐体と(中波長域に主感度をもつ)M 錐体が同時に同程度の刺激を受けることになりますので、 「青緑色( Cyan )」と判断することになります。( B + G = C )
青色光と緑色光の混合比(放射照度比)を変えると、それに応じて S 錐体と M 錐体が受ける刺激の強さが変わりますので脳が認識する色味もその混合比率に応じて、青( B )と緑( G )の間で変化します。
緑色光 G と 赤色光 R の加法混色
緑色光 G と赤色光 Rを同一エリア上に等しい放射照度で照射すれば、上記と同様に考えて、そのエリアには中波長域と長波長域の光が同時に存在することになります。従って、この混合光が M 錐体と(長波長域に主感度をもつ)L 錐体を同時に同程度に刺激することになり、脳は「 黄色 ( Yellow ) 」と判断することになります。( G + R = Y )
赤色光 R と 青色光 B の加法混色
赤色光 R と青色光 B を同一エリア上に等しい放射照度で照射すれば、上記と同様に考えて、そのエリアには長波長域と短波長域の光が同時に存在することになります。従って、この混合光が L 錐体と S 錐体を同時に同程度に刺激することになり、脳は「赤紫色 ( Magenta ) 」と判断することになります。( R + B = M )
三原色(青色光 B 、緑色光 G 、赤色光 R )の加法混色
三原色 ( B 、G 、R ) を同一エリアに等しい放射照度で照射すれば、そのエリアには、短波長、中波長、長波長の光が同時にほぼ均等に存在することになります。
従って S 、M 、L 錐体がほぼ等しい刺激を受けることになり、脳は「白 ( White ) 」とと判断することになります。
( B + G + R = W )
このようにして、三原色( B 、G 、R )の色光の混合比を変えることによって様々な色を加法混色によって作り出すことができます。
同時加法混色は、異なる色光を同一エリアに同時に照射しますので、そのエリアでは単一の色光よりも色光のエネルギーは増加します(放射照度は高くなります)。これより、色光の混色を「加法」混色と呼ぶ訳です。
減法混色の原理
減法混色を説明する図として、Y 、M 、C の三色の円形色フィルタを重ねた、右のような図をよく見かけます。
黄 ( Y ) と青緑 ( C ) を等量混色すると緑 ( G ) になり、青緑 ( C ) と赤紫 ( M ) を等量混色すると青 ( B ) になり、 赤紫 ( M ) と黄 ( Y ) を等量混色すると赤 ( R ) になります。更にまた、
三原色 ( Y 、M 、C ) を等量混色すると黒 ( K ) になる、というものです。減法混色の三原色 ( Y 、M 、C ) を混色するとなぜこのような結果になるのでしょうか?
三原色の色フィルタ ( Y 、M 、C ) の分光透過率特性は、模式的に示すと右図の様になっています。
黄フィルタ ( Y ) は、可視域短波長成分(青に見える成分)を吸収し、中波長および長波長成分(緑および赤に見える成分)を透過します。
マゼンタフィルタ ( M ) は、可視域中波長成分(緑に見える成分)を吸収し、短波長および長波長成分(青および赤に見える成分)を透過します。
シアンフィルタ ( C ) は、可視域長波長成分(赤く見える成分)を吸収し、中波長および短波長成分(緑および青に見える成分)を透過します。
可視域全体に亘ってエネルギーが概ね均等に分布している白色光 ( W ) がこれらの色フィルタの重ね合わせに入射する場合を考えます。
シアンフィルタ ( C ) と黄フィルタ ( Y ) の減法混色
白色光をシアンフィルタ ( C ) に入射させると、長波長光 ( R ) は吸収され、単波長光 ( B ) と中波長光 ( G ) が透過されます。この透過光( B + G )が次の黄フィルタに入射することになります。黄フィルタはシアンフィルタ ( C ) からの透過光の内、短波長光 ( B ) を吸収し、中波長光 ( G ) を透過します。
黄フィルタ ( Y ) は長波長光 ( R ) も透過するのですが長波長成分 ( R ) は既にシアンフィルタ ( C ) でカットされていますので、結局、両フィルタを重ねたときに透過するのは、共通に透過する波長域、すなわち中波長域の光 ( G ) だけとなります。その結果、M 錐体が強い刺激を受けるため、「緑色 ( G ) 」に見えることになります。 ( C + Y = G )
黄フィルタ ( Y ) とマゼンタフィルタ ( M ) の減法混色
考え方は上記のシアンフィルタ ( C ) と黄フィルタ ( Y ) の重ね合わせの場合と全く同じです。白色光が両者を共通に透過する波長域は、長波長域 ( R ) ですので、L 錐体が強く刺激され、「赤色 ( R ) 」に見えることになります。
マゼンタフィルタ ( M ) とシアンフィルタ ( C ) の減法混色
同様に、白色光が両者を共通に透過する波長域は、短波長域 ( B ) ですので、S 錐体が強く刺激され、「青色 ( B ) 」に見えることになります。
三原色( Y 、M 、C )フィルタの減法混色
Y 、M 、C の三原色フィルタを重ねると、入射した白色光の共通した透過波長域が無くなってしまうため、「真っ暗」すなわち「黒 ( K ) 」になってしまいます。
減法混色の場合、このように、フィルタへの入射光は、フィルタを通過する度にどんどん“削られて”いきます。(右図では矢印の大きさでそれを表現しています。) このことからフィルタやインクなどの色料による混色のことを「減法」混色と呼ぶ訳です。
上記の説明は、三原色のフィルタ ( Y 、M 、C ) の濃度が同等の場合で説明しましたが、それぞれのフィルタの濃度が異なる場合には、それらの濃度に依存する混色比率によって混色結果は原色間で連続的に変化します。
注釈
≪※1≫ 中間混色
「継時混色」と「並置混色」をあわせて、「中間混色」と呼ぶことがあります。
中間混色については、次回に詳しくお話します。
「継時混色」は中間混色の 1 種であることを明確に示すために「継時中間混色」と表現されることがあります。また、代表的な例が回転するコマであることから「回転混色」とも呼ばれることもあります。
「並置混色」は中間混色の 1 種であることを明確に示すために「並置中間混色」と表現されることがあります。また、「併置」という文字が使われる場合もあります。
≪※2≫ マゼンタ(Magenta)
「マゼンタ」という色名は、日本語の一般会話ではあまり馴染がない言葉です。マゼンタという色名の語源は、イタリアのミラノの西にある町の名前に由来していると言われています。 19 世紀半ばにイタリア統一軍(サルディニア連合軍)がオーストリア軍を打ち破った「マゼンタの戦い」と同じ頃に、鮮やかなピンク色の有機染料が発見され、その染料に「マゼンタ」という名前がついたということです。この「マゼ ンタ色」に対応する日本語としては、「赤」とか「黄」というような単独の色名が無く、「赤紫」ということになるのですが、呼び名としては少し長たらしいこともあって、外国語の「マゼンタ」がそのまま使用されるようになったようです。
≪※3≫ シアン( Cyan )
「シアン」という色名も、「マゼンタ」と同様、日本語の一般会話ではあまり馴染がありません。「シアン」の語源は古代ギリシャ語で暗い青を意味する cyanos という言葉からきているそうです。「マゼンタ」の場合と同様に、「シアン」に直接対応する日本語の単独の色名が存在せず、「青緑」という少し長い色名になるため、外国語の「シアン」がそのまま普及したものと思われます。青酸カリは正式にはシアン化カリウムと呼ばれますが、その結晶は青緑色をしています。
≪※4≫ 減法混色の三原色の呼び方に関する注意
カラー印刷用の三原色の版のことを正確には黄版、マゼンタ版(または赤紫版)、シアン版(または青緑版)と呼ぶべきところです。しかし、印刷業界等では、Y 、M 、C による版のことを、それぞれ「黄版」、「赤版(または紅版)」、「青版(または藍版)」と呼ぶ習慣がありますので注意が必要です。日本語には「 Yellow 」に直接対応する「黄」という色名はあるのですが、「マゼンタ」、「シアン」に直接対応する日本語色名が無く、呼び名としては長たらしいため、赤っぽく見えるので「赤(紅)版」、青っぽく見えるので「青(藍)版」と呼ぶようになったものと思われます。この背景として、日本では古来より、新緑の季節を「青葉の季節」と言ったり、田植え直後の水田を「青田」と言ったりするように、「青」と「緑」をあまり区別してこなかったという言語文化があるようです。