【画像ラボ2024年5月号掲載】
ハイパースペクトルカメラ用照明の開発事例
LED照明やハロゲンランプ照明を用いた、インライン検査への導入に向けた試み
はじめに
ハイパースペクトルカメラとは、高い波長分解能で画像を取得する機能を持つカメラであり、波長情報を解析することで、高精度の色検査や異物検出、成分分析といった通常のカメラでは困難な検査を行うことが可能である。ハイパースペクトルカメラが実用化された当初は、研究や分析向けの用途が主であったが、近年は異物検査や選別工程といった生産現場におけるインライン検査への導入事例も増えつつある。長年にわたりマシンビジョン用LED照明の製造・販売に携わってきた当社では、このように多くの市場要望に応えられるよう、ハイパースペクトルカメラの様々な用途に適した照明の開発を進めている。本稿ではその取り組みについて紹介する。
ハイパースペクトルカメラ用照明に求められる波長特性
一般に、ハイパースペクトルカメラの感度波長域は、可視光用センサでは波長400~1000nm程度、近赤外光用では900~1700nm程度となるものが主である。ハイパースペクトルカメラの性能を引き出すには、それらのカメラの感度波長域を切れ目なくカバーする発光スペクトルをもつ照明が必要となる。当社では上記の波長域をカバーする光源として、LEDとハロゲンランプを用途に応じて提案している。以下でそれぞれの照明と、その特長を紹介する。
ブロードスペクトルLED照明
ブロードスペクトルLEDは可視波長の全域にほぼ相当する390~900nm程度をカバーする発光スペクトルを持っている(図1)。光出力は一般的な白色LEDに比較すると低くはなるものの、波長特性から可視光用ハイパースペクトルカメラによる撮像に適している。当社グループ企業であるEFFILUX(エフィルクス)社が製品化したEFFI-FLEX-HSIシリーズは、上記ブロードスペクトルLEDを搭載したライン照射タイプの照明である(図2)。主な特徴としては、照明内部の集光レンズ位置を変えることで、照射範囲を調整できることが挙げられる。また、拡散板あるいは集光用シリンドリカルレンズを発光面に取り付けることができ、用途に応じた使い方が可能である。
図1 : ブロードスペクトルLEDの発光スペクトル
EFFI-FLEX-HSI
EFFI-FLEX-HSI Cylindrical
インライン検査向け 高出力ハイパースペクトルカメラ用LED照明
生産現場のようなインライン検査用途でハイパースペクトルカメラを導入する場合、タクトスピードに対応するために、非常に明るい照明が必要となる。従来では、そのような明るさに対応できる照明はハロゲンランプのみであったが、当社ではハロゲンランプよりも高出力かつブロードな発光スペクトルを持つLED照明を開発した(図3、図4)。ハロゲン照明に代わり当社LED照明を用いることで、LEDのメリットである長寿命・低発熱を活かした、インライン検査により適した検査環境を構築することが可能である。
図3 : 高出力ハイパースペクトルカメラ用LED照明
図4 : 高出力ハイパースペクトルカメラ用LED照明とハロゲンランプ照明の分光放射照度(照射距離100㎜での実測値)
ハロゲンランプ照明
当社ハロゲンランプ照明は可視光~近赤外の波長領域において切れ目のないブロードなスペクトルを有している(図5)。
近赤外域では光出力も十分に高く、インライン用途でも使用可能な照明である。
図5 : 当社ハロゲンランプ照明の発光スペクトル
ハロゲンランプ照明の製品例の一つとして、近赤外に最適化された特殊な拡散板を発光面に設けることで、波長400~2500nm程度までブロードな発光スペクトルを持ち、発光面の輝度均一性も良好な照明TH-200X30CIR(図6)がある。フィルムやウエハーのような透過撮像が必要となるアプリケーションに適した照明である。
図6 : 拡散型ハロゲンランプ照明 TH-200X30CIR
他には、高出力のハロゲンランプを搭載した、ラインスキャンタイプのハイパースペクトルカメラに適した照明
LDL-222X42CIR-LACL(図7)も製品化している。ランプ前面に拡散特性のある光学部材を配置し、帯状に光を照射することでワーク面での均一性を高めている。これらのハロゲンランプ照明もサイズ等のカスタム対応が可能であり、例えば、より長いライン幅に対応できるよう長尺化した照明も対応可能である。
図7 : 高照度型ハロゲンランプ照明 LDL-222X42CIR-LACL
近赤外ハイパースペクトルカメラへのLED照明の適用を目指した取り組み
現状では、近赤外ハイパースペクトルカメラ用途ではハロゲンランプ照明が主に使用されている。しかしハロゲンランプには短寿命・発熱といったデメリットがあるため、代替光源への要望も多い。
そこで当社では代替光源の実現化を目指して、近赤外ハイパースペクトルカメラに適用可能なLED照明の開発も進めている。
一例として、照射波長を検査対象に合わせて最適化した照明を用い、分類処理アルゴリズムを工夫することで、近赤外ハイパースペクトルカメラとLED照明を用いたプラスチック材質分類を実験レベルで成功している(図8-1、8-2、8-3)。今後更に検証を重ねることで、近赤外ハイパースペクトルカメラ用LED照明の実用化を進める予定である。
撮像構成
プラスチック片の外観画像
分類結果
赤:ポリプロピレン
緑:PET
青:ポリスチレン
おわりに
ハイパースペクトルカメラを活用した画像検査は今後も更なる拡大が期待されている。当社ではここで紹介した機種にとどまらず、ご要望に応じたカスタム対応や新製品の開発も随時進めている。当社テスティングルームでの実験や、デモ機を活用した検証や最適な構成の提案も可能であるため、実際のワークを用いての検証にはぜひご利用いただきたい。
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