【画像ラボ2022年4月号掲載】

ハイパースペクトルカメラに適した照明事例

はじめに

以前は、高価でかつ用途が限られていたハイパースペクトルカメラも、近年ではカメラメーカー各社から、より高性能で安価な製品が次々とリリースされており、それに伴って応用範囲が広がりつつある。ハイパースペクトルカメラを活用するための照明に対するニーズも多様化しており、長年にわたりマシンビジョン用LED照明の製造・販売に携わってきた当社としては、このような市場の要望に応えられるよう、ハイパースペクトルカメラでの使用を想定した照明の開発にも注力している。ハイパースペクトルカメラの撮像において、従来から使用されているハロゲンランプを使用した照明をはじめ、LEDタイプの照明もラインアップしており、その取り組みについて紹介する。

カメラの特性に合わせた照明の利用

ハイパースペクトルカメラの性能を引き出すには、広い波長域で分光情報を得ることが望ましい。一般に、可視光向けのSiセンサーを用いたハイパースペクトルカメラでは波長400 ~ 900nm程度、近赤外光向けのInGaAsセンサータイプでは900 ~ 1800nm程度に感度を有する。更には特殊なInGaAsセンサータイプとして可視光~ 2500nm程度まで感度を有するタイプも販売されている。

このようなカメラに対して有効な特性を持つ照明は、カメラの感度帯域に合わせて可視~近赤外へ幅広い波長域を途切れなく持つものである。従来から利用されていたハロゲンランプは上記の特性を有することから、現在でも赤外分析機器等の様々な先端科学装置で使用されている光源で、ハイパースペクトルカメラ用の照明としても非常に効果的である。

また、LEDを使用した照明としては、ブロードスペクトルLEDを利用した照明を製品化している。ブロードスペクトルLEDとは、一般的な白色LEDとは異なり、単一のLEDで広範な波長域に発光する特徴を持つ、当社独自に開発したLEDである。このLEDを搭載した照明を、当社グループ企業でありフランスに本社を置くEFFILUX(エフィルクス)社が製品化している。

上記は、カメラ側で分光を実現する手法であるため、照明はなるべく幅広い波長を照射することを目的とした機能を有したものとなっている。一方、他の手法としてカメラ側で分光するのではなく、照明側に複数の異なる波長のLEDを搭載し、それを順次点灯することで分光画像を得る方法もある。この場合、通常のカメラであっても、異なる波長ごとに複数回の撮像を実施することで、マルチスペクトルカメラのような画像を取得することができる。当社ではこのような利用を想定したLEDを用いたマルチバンド照明も開発している。

以下では、ハイパースペクトルカメラ撮像に利用可能なハロゲンランプを使用した照明、LEDを使用した可視光照明およびマルチバンド照明についてそれぞれ紹介していく。

ハロゲンランプ照明

ハロゲンランプはLEDに比較すると寿命が短く、また発熱があるものの、可視~近赤外の波長領域において幅広くかつブロードなスペクトルを有しており(図1)、ハイパースペクトルカメラによる撮像においては非常に効果的な照明である。

図1 : 当社ハロゲンランプ照明の発光スペクトル
図1 : 当社ハロゲンランプ照明の発光スペクトル
拡散型照明
TH-200×30CIR

発光面には近赤外波長に最適化された特殊な拡散板を設けることで、波長400 ~ 2500nm程度までブロードな発光スペクトルを達成し、発光面の輝度均一性も良好である。このような特性のため、撮像対象を透過撮像するためのバックライトに最適である(図2)。発光面のサイズ・形状等のカスタム変更が可能であり、例えば発光面を正方形にした製品にも対応可能である。

また、ハロゲンランプには特殊な処理が施されており、 一般的なハロゲンランプ寿命の数倍に相当する8,000時間の点灯時間を保証している。

図2 : TH-200×30CIR
図2 : TH-200×30CIR
ハイパースペクトルイメージング照明
LDL-222×42CIR-LACL

より出力の高いハロゲンランプを搭載し、その照射光を帯状に照射することで、上記TH-200×30CIRの10倍以上の出力を持つ、プッシュブルームタイプ(ラインスキャンタイプ)のハイパースペクトルカメラによる撮像に適した照明である(図3)。ランプ前面に拡散特性のある光学部材を配置し、従来品より照射面での均一性を高めている。波長特性はTH-200×30CIRと同様、可視~近赤外においてブロードな発光スペクトルとなっている。点灯時間の保証は2,500時間とTH-200×30CIRより短いものの、一般的なハロゲンランプより長時間の点灯が期待でき、ランプ交換頻度を減らすことができると想定される。

図3 : LDL-222×42CIR-LACL
図3 : LDL-222×42CIR-LACL
ブロードスペクトルLED照明

ブロードスペクトルLEDは可視波長の全域にほぼ相当する390 ~ 900nm程度をカバーする発光スペクトルを持っている(図4)。光出力は一般的な白色LEDに比較すると低くはなるものの、波長特性からハイパースペクトルカメラによる撮像に適している。

図4 : ブロードスペクトルLEDの発光スペクトル
図4 : ブロードスペクトルLEDの発光スペクトル
EFFI-FLEX-HSIシリーズ

上記ブロードスペクトルLEDを搭載したライン照射タイプのLED照明である(図5)。大きな特徴としては、照明内部の集光レンズ位置を変えることで、照射範囲を調整できることが挙げられる。また、明るさ重視のクリアタイプや拡散性の強いタイプの拡散板、あるいは集光用のシリンドリカルレンズ等から選択して発光面前面に取り付けることができ、レンズ位置の調整と合わせて用途に応じた使い方ができる。

プッシュブルームタイプ(ラインスキャンタイプ)のハイパースペクトルカメラによる撮像に最適化させるため、シリンドリカルレンズを使用して帯状に明るく集光させることもでき、また拡散板を使用すれば、透過撮像用として均一性の高い発光面を作り出すこともできる。

さらに、集光レンズを外せば、より広範囲に照射することができ、エリアタイプのハイパースペクトルカメラによる撮像にも適した照明となる。

EFFI-FLEX-HSIにはIP67防塵防水タイプEFFI-FLEX-CPT-HSI(図6)も加わり、食品検査のような水がかかる可能性のある環境であっても使用いただくことが可能である。

図5 : EFFI-FLEX-HSIシリーズ
図5 : EFFI-FLEX-HSIシリーズ
図6 : EFFI-FLEX-CPT-HSI
図6 : EFFI-FLEX-CPT-HSI
マルチバンド照明

照明側に複数の異なる波長のLEDを持たせて順次点灯することのできるマルチバンド照明を使用することで、通常のカメラを使用した場合でもマルチバンドカメラのようなデータを得ることができる。

例えば、8種類の近赤外LED(850nm,940nm,1050nm,1200nm,1350nm,1450nm,1550nm,1650nm)を順次点灯して対象物に照射して撮像することで、照射波長の異なる8枚の画像を取得できる。それぞれの画像は撮像対象の各波長の反射率を反映したものとなるから、ここで得られた画像のコントラストの特徴を元に、撮像対象の分類に応用することができる。

下記は近赤外マルチバンド照明を使用して、コーヒー粉と見た目の色が似ている異物(クッキー、紙、フィルム)を混ぜたワークを対象に8種類の赤外波長の各画像を取得したものである(図7)

図7 : 8種類の赤外波長による画像
図7 : 8種類の赤外波長による画像

得られた各画像はコーヒー粉と異物の赤外反射率の特徴が出ており、物体によって8種類の波長に対するコントラストが異なっている。この差を特徴量とし画像処理を加えることで、画像内に映った物体を分類することにも応用可能となる(図8)

図8 : 分類の一例
図8 : 分類の一例

なお、上記ではドーム照明タイプの8種類の近赤外マルチバンド照明(図9)を使用したが、可視光を使用したマルチバンド照明による色の識別への利用も想定される、また必要に応じて波長の数をより少なく(または多く)したり、リングタイプやバータイプのような形状に変更したりすることも可能であり、対象物や目的に最適化した照明を製作することも可能である。

図9 : マルチバンド照明(ドーム照明タイプ)
図9 : マルチバンド照明(ドーム照明タイプ)
おわりに

ハイパースペクトルカメラ市場は今後も更なる拡大が期待されており、導入事例が増えるにつれ、照明に要求される仕様もより高度かつ多様化していくことが予期される。当社ではここで紹介した機種にとどまらず、ご要望に応じたカスタム対応や新製品の開発も随時進めており、ハイパースペクトルカメラの利用に際して検討いただければ幸いである。

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