2章 紫外光(UV)を放射する代表的な光源
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UVランプ vs UV-LED
〜 紫外線光源の違い ~
UV硬化技術の重要な核となるUV光源は、従来式のUVランプ(低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)や、UV-LED照射器が利用されています。
UVランプは、その使用用途や目的に応じて、様々な分光スペクトルを持つ製品が開発されてきました。
また、UVランプはUV-LED照射器と比べ歴史が長く、UV硬化プロセス(キュアリング)の技術的な知見や、UVランプに対応したUV硬化樹脂の種類が豊富といった利点があります。
一方で、持続可能な開発目標(SDGs)に対していくつかの問題を抱えています。
主な問題点は、環境への影響(水銀の利用、消費電力が大きい、寿命が短いなど)、規制強化(水銀の利用を段階的に廃止方向)、健康リスク(水銀による影響)です。
このような理由から、一般照明の水銀を含む蛍光灯が白色LED照明に置き換わったように、産業用途でもUVランプからUV-LED照射器への置き換えの検討・実採用だけでなく、新規装置(新規ライン)への組込みが急速に加速しています。
代表的なUV硬化用光源
代表的なUV硬化用光源は、従来式のUVランプと、UV-LED照射器に分かれます。

ここからは従来からの代表的なUVランプをご紹介し、次章以降ではUV-LED照射器について詳しく説明します。
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代表的なUVランプの
構造と特長
水銀ランプ(高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ)の一般的な構造と発光の原理
水銀ランプは、アーク放電を利用した光源であり、UV硬化樹脂のキュアリングなどで古くから利用されてきました。
水銀ランプの一般的な構造を下図に示します。
構造は主に放電管部、シール部、端子部で構成されます。
石英ガラスからなる放電管内部には、水銀および、希ガスが封入され、対向する位置には電極が設けられています。
更に、発光管の両端部はシール部で封止されることで放電管内部への大気の流入や、放電管内部からの水銀蒸気などの流出を防ぐ構造となっています。
放電管内部に大気(酸素)が流入すると電極材料の酸化が起こり、ランプ寿命に影響(放射照度の低下)を及ぼすため放電管内は希ガスで満たされています。
水銀ランプの一般的な構造

水銀ランプの端子部から電流を流すと(電子が移動すると)、放電管内部を満たした水銀蒸気の水銀原子に電子が衝突して水銀原子が励起されますが、直ぐに安定した基底状態や準安定状態に戻ります。
この時放出される余分なエネルギー(光子・フォトン)が、水銀ランプの分光分布における特長的な輝線スペクトルとなって現れます。
特に、313nmはj線、365nmはi線、405nmはh線、436nmはg線と呼ばれ産業分野で利用されています。
各々の輝線スペクトルの相対強度は、封入されている水銀密度、ガス種・ガス圧などの設計要素により変化します。
輝線スペクトルの発生メカニズム

なお、水銀原子は全てが前述の励起に関わるのではなく、電離して水銀イオンになる水銀原子も存在します。
この水銀イオンに高速運動している電子が衝突すると両者の再結合が生じエネルギーが放射されます。
これが輝線スペクトル以外の連続スペクトルとして現れます。
連続スペクトル(輝線スペクトル以外)の発生

水銀ランプは、放電管内に封入される水銀量(水銀密度)や金属ハロゲン化物の有無により、各々の分光スペクトルにその特長が発現します。その結果、利用する用途に合わせた最適な光源の選択が可能です。
次に、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプおよび、参考としてキセノンランプ各々の分光スペクトルと特長、ならびに用途を解説します。
高圧水銀ランプの特長
点灯中の水銀蒸気圧が0.5~5.0MPa程度のランプです。
紫外線放射領域に幅広いスペクトルを有しており波長365nmを中心に、250~400nmに輝線スペクトルを持っています。
高圧水銀ランプは、古くからUV硬化性樹脂や塗料の硬化などに使用されている光源です。
高圧水銀ランプの分光分布を下図に示します。
高圧水銀ランプの分光分布例

低圧水銀ランプの特長
点灯中の水銀蒸気圧が1~10Pa程度のランプです。
波長185nm(オゾン線)と、254nm(殺菌線)の紫外光を効率よく放射します。
低圧水銀ランプは、洗浄や表面改質、殺菌などの用途で使用されている光源です。
低圧水銀ランプの分光分布を下図に示します。
低圧水銀ランプの分光分布例

メタルハライドランプの特長
高圧水銀ランプをベースに、金属をハロゲン化物の形で封入したランプです。
波長365nmを中心に、200~450nmの連続したスペクトルを放射するランプです。
代表的な用途は印刷ですが、塗料の硬化などにも使用されます。
メタルハライドランプの分光分布を下図に示します。
メタルハライドランプの分光分布例

キセノンランプの特長
参考として、キセノンランプについても簡単に説明します。
キセノンガスを封入したランプで、太陽光スペクトルに近似した連続スペクトルを放射します。
検査や印刷の調色評価、塗料の乾燥、耐光性試験用の光源、医療用・分析機器用光源などに幅広く使用されています。
また、キセノンフラッシュランプは、大光量のパルス光を発生させることできるため、写真撮影用のフラッシュのほか、樹脂素材の表面コーティングなど、瞬時照射で熱ダメージを低減したい用途で使用されています。
キセノンランプの分光分布を下図に示します。
キセノンランプの分光分布例

2 - 3 まとめ
UVランプは長い歴史の中で、使用用途や目的に応じて、様々な分光スペクトルを持つ製品が開発され、多様なプロセスに関する知見や、それに対応するUV硬化樹脂も開発されてきました。
一方で、近年では持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向け、UVランプからUV-LED照射器への置き換えが急速に進んでいます。
しかし、UVランプからUV-LED照射器への置き換えは、UV硬化樹脂と分光スペクトルのマッチングだけでなく、お客様固有の工程や硬化対象物の形状などにより容易なことではありません。
このような問題を解決するために、当社ではUVランプからUV-LED照射器への置き換えの検討・検証に必要な設備を取りそろえた羽田テスティングルーム(UV硬化専用の実験室)をご用意しており、これまで多くのお客様にご利用いただき、LED化へのソリューション提案を行っています。
なお、既にご使用中のUVランプに対応したUV硬化樹脂から変更できない方には、UV-LED方式だけでなく、UVランプ方式のUV硬化装置のご提案も可能ですのでお気軽にお声がけください。
次章ではUV-LED照射器について詳しく説明します。