1章 光の波長、紫外光(UV)の特長・用途
1 - 1 UV硬化技術とは
UV硬化とは、紫外放射エネルギーにより、短時間でUV硬化材料を重合硬化する技術です。
最大の特長は、短時間で硬化が完了することです。
これにより、従来の熱硬化法と比べてエネルギー消費を抑えることができ、製造プロセスにおけるCO2削減に大きく寄与します。
更に、UV硬化材料は有機溶剤を使用しないため揮発性有機化合物(VOC)の排出を大幅に削減できます。
このように、UV硬化技術は持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた重要な技術の1つとして今まで以上に期待されています。
実際に、接着や印刷、表面コーティングなどUV硬化樹脂のキュアリング(光硬化)、半導体工程のリソグラフィ(露光)、光洗浄、表面改質、殺菌、害虫駆除などの産業用途で幅広く活用されています。
UV硬化技術の重要な核となるUV光源は、従来のUVランプ(低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)や、UV-LED照射器が利用されています。
この章では、UV硬化技術の基礎となる光の波長とエネルギーおよび、光の産業界での利用例を説明します。
次章以降では各種UV光源について説明します。
1 - 2 光の波長
私たちは何気なく「明るい」、「暗い」という言葉をよく使います。
この「明るい」、「暗い」というのは、人間の眼を通して感じる感覚のことで、その感覚は「可視放射(可視光)」と呼ぶ「光」によってもたらされています。
科学の発達により可視放射は「電磁波」の一種であることが分かり、可視放射より短波長側、および長波長側にも、人間の眼には見えないけれども可視放射と物理的性質が変わらない「電磁波」が存在することが分かってきました。
この「電磁波」とは、電磁的エネルギーが空間を振動しながら伝播していく物理現象を指して言う言葉です。
電磁波もその文字表記の通り「波」の性質(波動性)を持っており、水面の波紋と同じようなことが起こります。
水面の波紋の山から山までの距離を「波長」と言います。
波動の伝搬イメージ図
水面にボールを投げ入れた時の着水位置でのボールの振動とエネルギーの伝搬

電磁波と呼ばれるものには、可視放射よりもずっと波長の短いガンマ線、X線などから、紫外放射、可視放射、赤外放射、更に波長の長いマイクロ波や放送用の電波まで、多くの種類があります。
可視放射の最長波長( 780 nm 辺りで赤色に見える)よりも長い波長の電磁波は「赤の外」すなわち「赤外(Infra Red:IR)」と呼ぶことになりました。
また、可視放射の最短波長( 380 nm 辺りで紫色に見える)よりも短い波長の電磁波は「紫の外」すなわち「紫外(Ultra Violet:UV)」と呼ぶことになりました。
IEC(国際電気標準会議)では100nm-400nmの波長範囲を、波長が長い順にUV-A、UV-B、UV-Cの3つに区分しています。
特に、紫外放射で波長が最も短い10nmから200nmの領域は、「真空紫外放射(Vacuum Ultra Violet:VUV)と呼ばれています。
この波長帯は酸素分子や窒素分子などの吸収帯に存在するために大気中で吸収され、真空状態でのみ伝播することに由来します。
電磁波の波長と種類
波長の短い電磁波は、大気中(オゾン層など)に吸収され地上には伝搬しない。

1 - 3 紫外光(UV)の特長・用途
紫外光の特長を説明する前に、まず電磁波の持つエネルギーについて簡単に説明します。
放出される電磁波(光子・フォトン)のエネルギーE[eV]は、その波長λ[nm]に反比例し、下記の式で表されます。
E=1240/λ
上式は、波長が短いほど、電磁波(光子・フォトン)が大きなエネルギーを持っていることを意味しています。
下図に、波長とエネルギーの関係および、代表的な利用用途をあわせて示しています。
紫外放射が大きなエネルギーを有していることが視覚的にわかると思います。
波長別の光エネルギーと利用用途
波長が短いほど強いエネルギーを持ち、特に紫外放射は光化学反応を起こすためのエネルギー源として多様な産業でUV光は利用されている。

1 - 4 まとめ
紫外光は人間の目に見えない光であり、強いエネルギー(光子・フォトン)を持っていて物質に光化学的な変化を起こすのが特長です。
身近な用途では、蛍光灯(ガラス管内に塗布した蛍光物質に紫外光があたり、可視放射が発生)で使用されています。
一方、産業界でも紫外光による光化学反応が古くから利用されてきました。
例えば、接着や印刷、表面コーティングなどUV硬化樹脂のキュアリング(光硬化)、半導体工程のリソグラフィ(露光)、光洗浄、表面改質、殺菌、害虫駆除など様々な用途で使用されています。
更に、近年では市場環境変化(SDGs)に対するニーズから多様な産業分野で紫外光の利用が拡大しています。
紫外光を放射する代表的な光源については、次章以降で詳しく説明します。