光と色の話 第一部

光と色の話 第一部

第35回 照明光 と 演色性

・・・・・ 演色性とは ・・・・・

モノの色の見え方

私たちが日常見ている物体の色は、その物体を照明する光の特性(分光分布)と、物体自身の光学的特性(分光反射率)、および人間の視覚特性の 3 つの要素の組み合わせ(掛け算)によって決まります(本連載の第 12 回参照)。
つまり、同じ物体であっても、物体を照明する光の特性が変われば、物体から眼に入射してくる光の物理的特性も変化し、更に視覚の特性が絡んで最終的な色の見え方が決まります。照明光が物体の色の見え方に及ぼす影響を「演色」と言い、この演色の効果を決めるその光源固有の性質を「演色性」と呼んでいます。

私たちは、人類誕生以来の長い長い歴史の中で、先祖代々、昼間は太陽の光の下で、夜は焚火や行燈などの明かりの下で生活してきましたので、これらの照明光源の下で見る物体の色が最も自然に見える、そういう DNA ?が浸み込んでいる訳です※1。色々な種類の物体それぞれに対して、「それらしい」色を無意識のうちに記憶・認識しており、そのような中で、太陽光や行燈などとは異なる特性(分光分布)の人工光で照明された物体を見ると、不自然に見えたり、好ましい色に見えなかったりすることが起こってしまうことになります※2

19 世紀後半にスワンやエジソンによって、初めて電力による人工の白色光源(白熱電球)が発明・実用化され、それから 130 年余り経ちましたが、その間に、蛍光灯、水銀灯、ナトリウム灯、キセノン灯、発光ダイオード( LED )、等々の人工光源が開発・実用化されてきました。それらの光源によって(厳密には、点灯条件によっても)照明される物体は、同じ物体であってもその色は様々に異なって見えます。

従って私たちは、実際に使用する光源を決める際には、その使用目的に照らし合わせて、モノの色の見え方の特徴(その光源の「演色性」の良否)を評価しておくことが必要になってきます。

演色性の考え方

モノの色の見え方については、冒頭部分の説明のように、基本的には照明光の特性(分光分布)と物体の物理的特性(分光反射率)の組み合わせでその大枠は決まるのですが、実際には視覚特性によっても生理的・心理的に変化します。照明光の演色性を考える場合、視覚特性に依存する物体の色の見え方の各種変化要因の内、光源の特性に直接関係する要因として「色順応効果」※3を考慮する必要があります。このような事情から、照明光の演色性は、次の 2 つの要因の合成によって決まることになります。

① : 照明光の特性(分光分布) ・・・・・ 物理的要因
② : 照明光による色順応効果 ・・・・・ 生理・心理的要因

要因① については、照明光の分光分布 P ( λ ) とモノ自体の分光反射率 ρ ( λ ) の掛け算の P ( λ ) ・ ρ ( λ ) という分光特性の光が眼に入射してきますので、これは完全に物理的な要因になり、厳密にその変化を客観的に数値で記述することができます。

これに対して、要因② については、本連載第 14 回でお話しましたように、人間の生理的・心理的要素が関係した結果、脳で認識される「色」に影響が及ぶ「色知覚」の領域が関係することになり、極めて複雑多様で個人差も大きいため、客観的定量的にはなかなか評価が難しいのが現実です。
ただ、異種光源間の色味が近い場合には、色順応効果をある程度客観的・定量的に取り扱うことが可能になります※4

演色性の評価に対する 2 つの考え方

上述のように照明光源によってモノの色も見え方は色々と変わりますが、それでは、どのような光源が「良い」光源と言えるのでしょうか?光源の演色性の良し悪しを評価する考え方としては大きく分けて次の[ A ]、[ B ]二通りの考え方(スタンス)があります。

[ A ] : (基準光源に対する)色再現の忠実性
[ B ] : 色の見え方の心理的「好ましさ」

[ A ]は、冒頭で触れましたように、人類の長い歴史の中で受け継いできた「自然なモノの色の見え方」を与える光源を基準光源として、同じモノを評価対象の光源で照明した場合にこの基準光源とどの程度同じ色に見えるか、という尺度で演色性を評価するものです。

これに対して、[ B ]は、心理的に好ましく見える光源を良い光源とする考え方です。
例えば、精肉店の店頭で見た肉の色が赤くて新鮮で美味しそうに見えたので買って帰り台所で開いてみると、それほど鮮やかな赤には見えずに少し黒ずんで見え、あまり新鮮にも見えなかった、という経験をお持ちの方も多いと思います。これは、台所で見た場合だけでなく、戸外の太陽光の下で見ても、精肉店の店頭で見るほど新鮮で美味しそうには見えないことが多いものです※5

つまり、[ A ]のスタンスによる評価が良い光源でも、[ B ]のスタンスによる評価では必ずしも良くない、ということが起こります。一般的には、上記の精肉の場合等のように、より鮮やかに見える方が心理的に好ましく感じられる傾向が強いようです。[ B ]の評価法は、様々な心理的要素絡み合った評価であり、また、評価する人によって個人差が大きいため、客観的定量的評価が難しく、現時点( 2015 年春)ではまだ確実な評価方法は確立されていません。

CIE 演色評価法

光源の演色性評価について、現在世の中で広く使われているのは、専ら上記[ A ]の「基準光源に対する色再現の忠実性」による評価方法で、その代表が CIE (国際照明委員会)によって規定された CIE 演色評価法です。

これは、予め設定された試験色(色票)を基準の光源で照明した時の色に対して、試験対象の光源で同じ色票を照明し、どれだけの色差が発生するか、を評価するものです。ただし、その基準光源については、試験対象光源の相関色温度を予め測定しておき、その相関色温度と等しい(相関)色温度の基準光源( CIE 昼光、あるいは黒体放射光)を設定します。
原則として、試料光源の相関色温度が 5000 K 以上の場合は同一相関色温度の CIE 昼光を、 5000 K 未満の場合は、同一色温度の黒体放射を基準光源に設定することになっています※6

基準光源の(相関)色温度を試験対象光源の相関色温度と揃えるのは、(相関)色温度が大きく離れた光源間では、モノの色の見え方・心理的印象が大きく異なり、適正な評価が難しくなってしまうためです。

また、演色性を決める 2 つの要因の内の、②の「照明光による色順応効果」の要因が十分に働いた結果、最終的に残る色差を評価することになっています。基準光源と試料光源の相関色温度を揃えるという条件は、「色順応効果」を客観的・定量的に取り扱うための前提条件でもあり、数値計算上、「色順応効果」によって光源間の色差をゼロにした後に、なおかつ残る物体の色差を評価する為です。

試験色(色票)については、身辺に存在する代表的な色として、CIE 規格では全部で 14 種決められています。No. 1 ~ No. 8 は、様々な色相から中間色系統(マンセル彩度 4 ~ 8)の色が設定されており、また、No. 9 ~ 12 は彩度の高い純色系の 4 色(赤、黄、緑、青)、更に、心理的に色の違いに比較的敏感な色として、No. 13 は女性(白人)の肌の色、No. 14 は代表的な木の葉の緑として採用されています。なお、CIE 規格は白人を前提としたものですので、 JIS 規格では、黄色人種の女性の肌の色としてNo. 15 をもう 1 色追加しています。

各試験色の分光反射率(正確に言えば分光放射輝度率)が下図のように全て数値で定義されています。これら 14 種( JIS では 15 種)の試験色それぞれに対して、基準光源で照明した時と、試験光源で照明した時との、色順応後に残る色差 ⊿EiCIE 1964 均等色空間における色差)を計算します※7

これらの色差データから、それぞれの試験色に対する特殊演色評価数 Ri が下記の式で定義されます。

Ri = 100 - 4.6 ・ ⊿Ei   i = 1 ~ 14( 15 )

色差 ⊿Ei は必ず非負ですから、この定義式からわかりますように、Ri ≦ 100 となります。

すなわち、Ri = 100 の場合は、試料光源で照明したその色票は基準光源で照明した時の色と全く同じに見える(「色再現性」が最良)、ということを示しています。両光源下での色差 ⊿Ei が大きくなる程、すなわち演色性が悪くなる程、Ri の値は小さくなっていきます。

こうして求められた 14( 15 )種の特殊演色評価数 Ri の内の、R1R8 の 8 個の特殊演色評価数の平均をとったものが平均演色評価数 Ra です。すなわち、

CIE 演色評価法の運用上の注意

上記の定義から解りますように、平均演色評価数 Ra は、各色相を代表する 8 種の色の平均ですから、総合的に見た色再現の良否の“目安”を示す指数で、個別の色の色再現については、特殊演色評価数 Ri を併用する必要があります。

また、試料光源の色味(相関色温度)を指定して初めて演色評価数 RiRa が意味を持ちますので、その前提となる相関色温度を必ず併記しておく必要があります。ほぼ等しい演色評価数の値であっても、光源の色味が大きく離れていれば、モノの色の見え方は大きく異なり、比較すること自体意味がなくなってしまうからです。

更に、演色評価数の定義は、2 種の照明光源下における試験色の「色差 ⊿Ei 」に対して求められる訳ですから、赤味寄り、とか、青味寄りとかいうような、色ズレの「方向」までの情報は込められていません。

演色評価法の改善へ向けて

現在世の中で広く用いられている CIE 演色評価法ですが、上記のように、幾つかの運用上の注意点を孕んでいること、更に、評価数算出処理上の問題点※8も指摘されていることから、改善の検討が進められています。元々の予定では、各種の新しい評価法の提案が議論され、もう何年も前に新しい規格に更新されているはずだったのですが、様々な長所欠点、利害得失もあり、議論がなかなか収斂せず、現時点( 2015 年春)の段階では、まだ新規格が成立しておりません。

また、最も基本的なところでは、現在の CIE 演色評価法は[ A ]の“基準光源に対する色再現の忠実性”に基いた評価法であり、[ B ]の“色の見え方の心理的「好ましさ」”による評価法ではありません。[ B ]のスタンスによる評価法の確立に向けての研究・提案も行われていますが、現時点、まだ広く受け入れられる評価法として確立されているとは言えない状態です。

しかし、いずれにしても、そう遠くない時期に規格が改訂される可能性があると考えられます。

注釈

※1

太陽の光や、焚火の光など、人類誕生以来ずっと慣れ親しんできた光源は、分光的には可視域全体にエネルギーが連続的に分布し、その凹凸が比較的少ない、いわゆる「連続スペクトル」となっています。

※2

例えば、最近は耳にすることは少なくなりましたが、半世紀ほど前には、デパートで色が気に入って買った服を着て、実際に戸外に出てみると、同じ服なのにデパートで見た時の色と何だかちょっと違った色に見えた、というような話がよくありました。この頃は蛍光灯が普及し始めた時代で、デパートの売り場の照明に蛍光灯が採用されていたという場合が多かった様です。当時の蛍光灯は、(今回のテーマの)演色性が良くなかったため、このようなことがよく起ったものです。

※3 色順応効果

私たちが日常体験する色順応効果の例としては、例えば、昼光色蛍光灯の点った部屋で白い紙を見ている状態で、照明光を蛍光灯から白熱灯に切り替えると、切り替え直後は、その紙は幾分黄赤味を帯びた色に見えますが、じきにその不自然さは消えて、さきほどの昼光色蛍光灯の照明下での紙に色と同じように見えます。

人間は、モノの色を見ているとき、「色」だけを見ているのではなく、そのモノが何であるか(この例の場合は、「白い紙」であること)も同時に認識しています。

昼白色蛍光灯の下で、 L 、 M 、 S 錐体がほぼ等しい刺激を受けて脳が「白」と判断しているのですが、白熱灯の分光分布は、(赤く見える)長波長成分強く、(青く見える)単波長成分が弱いので、同じ紙からの反射光によって錐体の受ける刺激が急激に変化します。生体はその変化を緩和するような生理的反応を示し、 L 錐体の感度が鈍い方向に、 S 錐体の感動が鋭敏な方向に変化します。その結果、 L 、 M 、 S 錐体から脳へ送られる刺激信号は、眼への入射光の物理的変化を打ち消すように働き、その結果、脳では L 、 M 、 S 錐体からの刺激信号の強さがほぼ同じ程度となり、「白」と認識することになります。つまり、人間の目が、照明光の切り替わりによる物体からの反射光の分光分布の急激な変化を緩和するように、生理的に視細胞( L 、 M 、 S 錐体)の相対的感度比を変化・順応させているからです。

(ホワイトバランス設定を固定した)カメラで、昼白色蛍光灯の下で白く写った紙に対して、照明を白熱灯に切り替えて同じカメラで撮影すると、照明光の分光分布の違いが直接影響して、紙の色は、白ではなくオレンジ色がかって写ってしまいます。ところが、ホワイトバランスをオートに設定して写すと、(白色光である限り)照明光の分光分布に依らず、(昼光色蛍光灯であっても、白熱灯であっても)写った写真は白い紙に仕上がります。別の例としては、夕焼けの景色をオートホワイトバランスで撮影しても、赤く染まった夕焼けらしく写りません。つまり、オートホワイトバランスは人間の眼の色順応効果に対応するものと考えることができます。

※4 各種色知覚効果と照明光の演色性

私たちが普段見ている光景は、視界が単色のみということは滅多に無く、複数以上の色が併存し、あるいは時間的に切り替わったりしています。このような環境の中では、異なる色同士が影響を及ぼしあって認識される色対比(同時色対比、継時色対比)や色同化などの各種の「色知覚効果」が起こっています。

しかし、光源自体の特性を示す演色性を考える場合には、物体側の空間的・継時的配置等に直接的に起因する色知覚効果の要素は除いて、光源特性そのものが直接関係する色順応効果のみを考慮することになります。(異なる物体色が併存して、色対比や色同化を引き起こすようなことが無い条件で評価します。)

※5 食肉展示用蛍光ランプ

精肉店の店頭では、肉の色がより生き生きとした鮮やかな赤に見えるような光源を使っていることが多くあります。

※6 基準光源選択の例外規定

例外規定として、昼白色蛍光ランプで、相関色温度が Tcp ≧ 4600 K のものについては、同一相関色温度の CIE 昼光を用いることになっています。

※7 色差 ⊿Ei の算出

演色性評価における色差 ⊿Ei は、実際には、下記 ① ② ③ の各数値データから計算によって数値計算で求めます。(詳細はJIS Z 8726:1990を参照下さい。)
① 基準光源および試験光源の分光分布データ
② 各試験色の分光反射率(分光輝度率)の数値データ
③ 色順応補正近似式

※8 現行 CIE 演色評価数算出処理上の問題点

「色差 ⊿Ei 」の算出に、均等色空間としてはまだ完成度の低かった“ 1964 均等色空間”を使用することになっていることや、色順応補正近似式( von Kries' coefficient rule )について、1974 年に CIE 演色評価法が確立された後に更に改善が進んでいること、などの問題点が指摘されています。

照明光 と 演色性
・・・・・ 演色性とは ・・・・・

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第35回 照明光 と 演色性

・・・・・ 演色性とは ・・・・・

モノの色の見え方

私たちが日常見ている物体の色は、その物体を照明する光の特性(分光分布)と、物体自身の光学的特性(分光反射率)、および人間の視覚特性の 3 つの要素の組み合わせ(掛け算)によって決まります(本連載の第 12 回参照)。
つまり、同じ物体であっても、物体を照明する光の特性が変われば、物体から眼に入射してくる光の物理的特性も変化し、更に視覚の特性が絡んで最終的な色の見え方が決まります。照明光が物体の色の見え方に及ぼす影響を「演色」と言い、この演色の効果を決めるその光源固有の性質を「演色性」と呼んでいます。

私たちは、人類誕生以来の長い長い歴史の中で、先祖代々、昼間は太陽の光の下で、夜は焚火や行燈などの明かりの下で生活してきましたので、これらの照明光源の下で見る物体の色が最も自然に見える、そういう DNA ?が浸み込んでいる訳です※1。色々な種類の物体それぞれに対して、「それらしい」色を無意識のうちに記憶・認識しており、そのような中で、太陽光や行燈などとは異なる特性(分光分布)の人工光で照明された物体を見ると、不自然に見えたり、好ましい色に見えなかったりすることが起こってしまうことになります※2

19 世紀後半にスワンやエジソンによって、初めて電力による人工の白色光源(白熱電球)が発明・実用化され、それから 130 年余り経ちましたが、その間に、蛍光灯、水銀灯、ナトリウム灯、キセノン灯、発光ダイオード( LED )、等々の人工光源が開発・実用化されてきました。それらの光源によって(厳密には、点灯条件によっても)照明される物体は、同じ物体であってもその色は様々に異なって見えます。

従って私たちは、実際に使用する光源を決める際には、その使用目的に照らし合わせて、モノの色の見え方の特徴(その光源の「演色性」の良否)を評価しておくことが必要になってきます。

演色性の考え方

モノの色の見え方については、冒頭部分の説明のように、基本的には照明光の特性(分光分布)と物体の物理的特性(分光反射率)の組み合わせでその大枠は決まるのですが、実際には視覚特性によっても生理的・心理的に変化します。照明光の演色性を考える場合、視覚特性に依存する物体の色の見え方の各種変化要因の内、光源の特性に直接関係する要因として「色順応効果」※3を考慮する必要があります。このような事情から、照明光の演色性は、次の 2 つの要因の合成によって決まることになります。

① : 照明光の特性(分光分布) ・・・・・ 物理的要因
② : 照明光による色順応効果 ・・・・・ 生理・心理的要因

要因① については、照明光の分光分布 P ( λ ) とモノ自体の分光反射率 ρ ( λ ) の掛け算の P ( λ ) ・ ρ ( λ ) という分光特性の光が眼に入射してきますので、これは完全に物理的な要因になり、厳密にその変化を客観的に数値で記述することができます。

これに対して、要因② については、本連載第 14 回でお話しましたように、人間の生理的・心理的要素が関係した結果、脳で認識される「色」に影響が及ぶ「色知覚」の領域が関係することになり、極めて複雑多様で個人差も大きいため、客観的定量的にはなかなか評価が難しいのが現実です。
ただ、異種光源間の色味が近い場合には、色順応効果をある程度客観的・定量的に取り扱うことが可能になります※4

演色性の評価に対する 2 つの考え方

上述のように照明光源によってモノの色も見え方は色々と変わりますが、それでは、どのような光源が「良い」光源と言えるのでしょうか?光源の演色性の良し悪しを評価する考え方としては大きく分けて次の[ A ]、[ B ]二通りの考え方(スタンス)があります。

[ A ] : (基準光源に対する)色再現の忠実性
[ B ] : 色の見え方の心理的「好ましさ」

[ A ]は、冒頭で触れましたように、人類の長い歴史の中で受け継いできた「自然なモノの色の見え方」を与える光源を基準光源として、同じモノを評価対象の光源で照明した場合にこの基準光源とどの程度同じ色に見えるか、という尺度で演色性を評価するものです。

これに対して、[ B ]は、心理的に好ましく見える光源を良い光源とする考え方です。
例えば、精肉店の店頭で見た肉の色が赤くて新鮮で美味しそうに見えたので買って帰り台所で開いてみると、それほど鮮やかな赤には見えずに少し黒ずんで見え、あまり新鮮にも見えなかった、という経験をお持ちの方も多いと思います。これは、台所で見た場合だけでなく、戸外の太陽光の下で見ても、精肉店の店頭で見るほど新鮮で美味しそうには見えないことが多いものです※5

つまり、[ A ]のスタンスによる評価が良い光源でも、[ B ]のスタンスによる評価では必ずしも良くない、ということが起こります。一般的には、上記の精肉の場合等のように、より鮮やかに見える方が心理的に好ましく感じられる傾向が強いようです。[ B ]の評価法は、様々な心理的要素絡み合った評価であり、また、評価する人によって個人差が大きいため、客観的定量的評価が難しく、現時点( 2015 年春)ではまだ確実な評価方法は確立されていません。

CIE 演色評価法

光源の演色性評価について、現在世の中で広く使われているのは、専ら上記[ A ]の「基準光源に対する色再現の忠実性」による評価方法で、その代表が CIE (国際照明委員会)によって規定された CIE 演色評価法です。

これは、予め設定された試験色(色票)を基準の光源で照明した時の色に対して、試験対象の光源で同じ色票を照明し、どれだけの色差が発生するか、を評価するものです。ただし、その基準光源については、試験対象光源の相関色温度を予め測定しておき、その相関色温度と等しい(相関)色温度の基準光源( CIE 昼光、あるいは黒体放射光)を設定します。
原則として、試料光源の相関色温度が 5000 K 以上の場合は同一相関色温度の CIE 昼光を、 5000 K 未満の場合は、同一色温度の黒体放射を基準光源に設定することになっています※6

基準光源の(相関)色温度を試験対象光源の相関色温度と揃えるのは、(相関)色温度が大きく離れた光源間では、モノの色の見え方・心理的印象が大きく異なり、適正な評価が難しくなってしまうためです。

また、演色性を決める 2 つの要因の内の、②の「照明光による色順応効果」の要因が十分に働いた結果、最終的に残る色差を評価することになっています。基準光源と試料光源の相関色温度を揃えるという条件は、「色順応効果」を客観的・定量的に取り扱うための前提条件でもあり、数値計算上、「色順応効果」によって光源間の色差をゼロにした後に、なおかつ残る物体の色差を評価する為です。

試験色(色票)については、身辺に存在する代表的な色として、CIE 規格では全部で 14 種決められています。No. 1 ~ No. 8 は、様々な色相から中間色系統(マンセル彩度 4 ~ 8)の色が設定されており、また、No. 9 ~ 12 は彩度の高い純色系の 4 色(赤、黄、緑、青)、更に、心理的に色の違いに比較的敏感な色として、No. 13 は女性(白人)の肌の色、No. 14 は代表的な木の葉の緑として採用されています。なお、CIE 規格は白人を前提としたものですので、 JIS 規格では、黄色人種の女性の肌の色としてNo. 15 をもう 1 色追加しています。

各試験色の分光反射率(正確に言えば分光放射輝度率)が下図のように全て数値で定義されています。これら 14 種( JIS では 15 種)の試験色それぞれに対して、基準光源で照明した時と、試験光源で照明した時との、色順応後に残る色差 ⊿EiCIE 1964 均等色空間における色差)を計算します※7

これらの色差データから、それぞれの試験色に対する特殊演色評価数 Ri が下記の式で定義されます。

Ri = 100 - 4.6 ・ ⊿Ei   i = 1 ~ 14( 15 )

色差 ⊿Ei は必ず非負ですから、この定義式からわかりますように、Ri ≦ 100 となります。

すなわち、Ri = 100 の場合は、試料光源で照明したその色票は基準光源で照明した時の色と全く同じに見える(「色再現性」が最良)、ということを示しています。両光源下での色差 ⊿Ei が大きくなる程、すなわち演色性が悪くなる程、Ri の値は小さくなっていきます。

こうして求められた 14( 15 )種の特殊演色評価数 Ri の内の、R1R8 の 8 個の特殊演色評価数の平均をとったものが平均演色評価数 Ra です。すなわち、

CIE 演色評価法の運用上の注意

上記の定義から解りますように、平均演色評価数 Ra は、各色相を代表する 8 種の色の平均ですから、総合的に見た色再現の良否の“目安”を示す指数で、個別の色の色再現については、特殊演色評価数 Ri を併用する必要があります。

また、試料光源の色味(相関色温度)を指定して初めて演色評価数 RiRa が意味を持ちますので、その前提となる相関色温度を必ず併記しておく必要があります。ほぼ等しい演色評価数の値であっても、光源の色味が大きく離れていれば、モノの色の見え方は大きく異なり、比較すること自体意味がなくなってしまうからです。

更に、演色評価数の定義は、2 種の照明光源下における試験色の「色差 ⊿Ei 」に対して求められる訳ですから、赤味寄り、とか、青味寄りとかいうような、色ズレの「方向」までの情報は込められていません。

演色評価法の改善へ向けて

現在世の中で広く用いられている CIE 演色評価法ですが、上記のように、幾つかの運用上の注意点を孕んでいること、更に、評価数算出処理上の問題点※8も指摘されていることから、改善の検討が進められています。元々の予定では、各種の新しい評価法の提案が議論され、もう何年も前に新しい規格に更新されているはずだったのですが、様々な長所欠点、利害得失もあり、議論がなかなか収斂せず、現時点( 2015 年春)の段階では、まだ新規格が成立しておりません。

また、最も基本的なところでは、現在の CIE 演色評価法は[ A ]の“基準光源に対する色再現の忠実性”に基いた評価法であり、[ B ]の“色の見え方の心理的「好ましさ」”による評価法ではありません。[ B ]のスタンスによる評価法の確立に向けての研究・提案も行われていますが、現時点、まだ広く受け入れられる評価法として確立されているとは言えない状態です。

しかし、いずれにしても、そう遠くない時期に規格が改訂される可能性があると考えられます。

注釈

※1

太陽の光や、焚火の光など、人類誕生以来ずっと慣れ親しんできた光源は、分光的には可視域全体にエネルギーが連続的に分布し、その凹凸が比較的少ない、いわゆる「連続スペクトル」となっています。

※2

例えば、最近は耳にすることは少なくなりましたが、半世紀ほど前には、デパートで色が気に入って買った服を着て、実際に戸外に出てみると、同じ服なのにデパートで見た時の色と何だかちょっと違った色に見えた、というような話がよくありました。この頃は蛍光灯が普及し始めた時代で、デパートの売り場の照明に蛍光灯が採用されていたという場合が多かった様です。当時の蛍光灯は、(今回のテーマの)演色性が良くなかったため、このようなことがよく起ったものです。

※3 色順応効果

私たちが日常体験する色順応効果の例としては、例えば、昼光色蛍光灯の点った部屋で白い紙を見ている状態で、照明光を蛍光灯から白熱灯に切り替えると、切り替え直後は、その紙は幾分黄赤味を帯びた色に見えますが、じきにその不自然さは消えて、さきほどの昼光色蛍光灯の照明下での紙に色と同じように見えます。

人間は、モノの色を見ているとき、「色」だけを見ているのではなく、そのモノが何であるか(この例の場合は、「白い紙」であること)も同時に認識しています。

昼白色蛍光灯の下で、 L 、 M 、 S 錐体がほぼ等しい刺激を受けて脳が「白」と判断しているのですが、白熱灯の分光分布は、(赤く見える)長波長成分強く、(青く見える)単波長成分が弱いので、同じ紙からの反射光によって錐体の受ける刺激が急激に変化します。生体はその変化を緩和するような生理的反応を示し、 L 錐体の感度が鈍い方向に、 S 錐体の感動が鋭敏な方向に変化します。その結果、 L 、 M 、 S 錐体から脳へ送られる刺激信号は、眼への入射光の物理的変化を打ち消すように働き、その結果、脳では L 、 M 、 S 錐体からの刺激信号の強さがほぼ同じ程度となり、「白」と認識することになります。つまり、人間の目が、照明光の切り替わりによる物体からの反射光の分光分布の急激な変化を緩和するように、生理的に視細胞( L 、 M 、 S 錐体)の相対的感度比を変化・順応させているからです。

(ホワイトバランス設定を固定した)カメラで、昼白色蛍光灯の下で白く写った紙に対して、照明を白熱灯に切り替えて同じカメラで撮影すると、照明光の分光分布の違いが直接影響して、紙の色は、白ではなくオレンジ色がかって写ってしまいます。ところが、ホワイトバランスをオートに設定して写すと、(白色光である限り)照明光の分光分布に依らず、(昼光色蛍光灯であっても、白熱灯であっても)写った写真は白い紙に仕上がります。別の例としては、夕焼けの景色をオートホワイトバランスで撮影しても、赤く染まった夕焼けらしく写りません。つまり、オートホワイトバランスは人間の眼の色順応効果に対応するものと考えることができます。

※4 各種色知覚効果と照明光の演色性

私たちが普段見ている光景は、視界が単色のみということは滅多に無く、複数以上の色が併存し、あるいは時間的に切り替わったりしています。このような環境の中では、異なる色同士が影響を及ぼしあって認識される色対比(同時色対比、継時色対比)や色同化などの各種の「色知覚効果」が起こっています。

しかし、光源自体の特性を示す演色性を考える場合には、物体側の空間的・継時的配置等に直接的に起因する色知覚効果の要素は除いて、光源特性そのものが直接関係する色順応効果のみを考慮することになります。(異なる物体色が併存して、色対比や色同化を引き起こすようなことが無い条件で評価します。)

※5 食肉展示用蛍光ランプ

精肉店の店頭では、肉の色がより生き生きとした鮮やかな赤に見えるような光源を使っていることが多くあります。

※6 基準光源選択の例外規定

例外規定として、昼白色蛍光ランプで、相関色温度が Tcp ≧ 4600 K のものについては、同一相関色温度の CIE 昼光を用いることになっています。

※7 色差 ⊿Ei の算出

演色性評価における色差 ⊿Ei は、実際には、下記 ① ② ③ の各数値データから計算によって数値計算で求めます。(詳細はJIS Z 8726:1990を参照下さい。)
① 基準光源および試験光源の分光分布データ
② 各試験色の分光反射率(分光輝度率)の数値データ
③ 色順応補正近似式

※8 現行 CIE 演色評価数算出処理上の問題点

「色差 ⊿Ei 」の算出に、均等色空間としてはまだ完成度の低かった“ 1964 均等色空間”を使用することになっていることや、色順応補正近似式( von Kries' coefficient rule )について、1974 年に CIE 演色評価法が確立された後に更に改善が進んでいること、などの問題点が指摘されています。

照明光 と 演色性
・・・・・ 演色性とは ・・・・・

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第35回 照明光 と 演色性

・・・・・ 演色性とは ・・・・・

モノの色の見え方

私たちが日常見ている物体の色は、その物体を照明する光の特性(分光分布)と、物体自身の光学的特性(分光反射率)、および人間の視覚特性の 3 つの要素の組み合わせ(掛け算)によって決まります(本連載の第 12 回参照)。
つまり、同じ物体であっても、物体を照明する光の特性が変われば、物体から眼に入射してくる光の物理的特性も変化し、更に視覚の特性が絡んで最終的な色の見え方が決まります。照明光が物体の色の見え方に及ぼす影響を「演色」と言い、この演色の効果を決めるその光源固有の性質を「演色性」と呼んでいます。

私たちは、人類誕生以来の長い長い歴史の中で、先祖代々、昼間は太陽の光の下で、夜は焚火や行燈などの明かりの下で生活してきましたので、これらの照明光源の下で見る物体の色が最も自然に見える、そういう DNA ?が浸み込んでいる訳です※1。色々な種類の物体それぞれに対して、「それらしい」色を無意識のうちに記憶・認識しており、そのような中で、太陽光や行燈などとは異なる特性(分光分布)の人工光で照明された物体を見ると、不自然に見えたり、好ましい色に見えなかったりすることが起こってしまうことになります※2

19 世紀後半にスワンやエジソンによって、初めて電力による人工の白色光源(白熱電球)が発明・実用化され、それから 130 年余り経ちましたが、その間に、蛍光灯、水銀灯、ナトリウム灯、キセノン灯、発光ダイオード( LED )、等々の人工光源が開発・実用化されてきました。それらの光源によって(厳密には、点灯条件によっても)照明される物体は、同じ物体であってもその色は様々に異なって見えます。

従って私たちは、実際に使用する光源を決める際には、その使用目的に照らし合わせて、モノの色の見え方の特徴(その光源の「演色性」の良否)を評価しておくことが必要になってきます。

演色性の考え方

モノの色の見え方については、冒頭部分の説明のように、基本的には照明光の特性(分光分布)と物体の物理的特性(分光反射率)の組み合わせでその大枠は決まるのですが、実際には視覚特性によっても生理的・心理的に変化します。照明光の演色性を考える場合、視覚特性に依存する物体の色の見え方の各種変化要因の内、光源の特性に直接関係する要因として「色順応効果」※3を考慮する必要があります。このような事情から、照明光の演色性は、次の 2 つの要因の合成によって決まることになります。

① : 照明光の特性(分光分布) ・・・・・ 物理的要因
② : 照明光による色順応効果 ・・・・・ 生理・心理的要因

要因① については、照明光の分光分布 P ( λ ) とモノ自体の分光反射率 ρ ( λ ) の掛け算の P ( λ ) ・ ρ ( λ ) という分光特性の光が眼に入射してきますので、これは完全に物理的な要因になり、厳密にその変化を客観的に数値で記述することができます。

これに対して、要因② については、本連載第 14 回でお話しましたように、人間の生理的・心理的要素が関係した結果、脳で認識される「色」に影響が及ぶ「色知覚」の領域が関係することになり、極めて複雑多様で個人差も大きいため、客観的定量的にはなかなか評価が難しいのが現実です。
ただ、異種光源間の色味が近い場合には、色順応効果をある程度客観的・定量的に取り扱うことが可能になります※4

演色性の評価に対する 2 つの考え方

上述のように照明光源によってモノの色も見え方は色々と変わりますが、それでは、どのような光源が「良い」光源と言えるのでしょうか?光源の演色性の良し悪しを評価する考え方としては大きく分けて次の[ A ]、[ B ]二通りの考え方(スタンス)があります。

[ A ] : (基準光源に対する)色再現の忠実性
[ B ] : 色の見え方の心理的「好ましさ」

[ A ]は、冒頭で触れましたように、人類の長い歴史の中で受け継いできた「自然なモノの色の見え方」を与える光源を基準光源として、同じモノを評価対象の光源で照明した場合にこの基準光源とどの程度同じ色に見えるか、という尺度で演色性を評価するものです。

これに対して、[ B ]は、心理的に好ましく見える光源を良い光源とする考え方です。
例えば、精肉店の店頭で見た肉の色が赤くて新鮮で美味しそうに見えたので買って帰り台所で開いてみると、それほど鮮やかな赤には見えずに少し黒ずんで見え、あまり新鮮にも見えなかった、という経験をお持ちの方も多いと思います。これは、台所で見た場合だけでなく、戸外の太陽光の下で見ても、精肉店の店頭で見るほど新鮮で美味しそうには見えないことが多いものです※5

つまり、[ A ]のスタンスによる評価が良い光源でも、[ B ]のスタンスによる評価では必ずしも良くない、ということが起こります。一般的には、上記の精肉の場合等のように、より鮮やかに見える方が心理的に好ましく感じられる傾向が強いようです。[ B ]の評価法は、様々な心理的要素絡み合った評価であり、また、評価する人によって個人差が大きいため、客観的定量的評価が難しく、現時点( 2015 年春)ではまだ確実な評価方法は確立されていません。

CIE 演色評価法

光源の演色性評価について、現在世の中で広く使われているのは、専ら上記[ A ]の「基準光源に対する色再現の忠実性」による評価方法で、その代表が CIE (国際照明委員会)によって規定された CIE 演色評価法です。

これは、予め設定された試験色(色票)を基準の光源で照明した時の色に対して、試験対象の光源で同じ色票を照明し、どれだけの色差が発生するか、を評価するものです。ただし、その基準光源については、試験対象光源の相関色温度を予め測定しておき、その相関色温度と等しい(相関)色温度の基準光源( CIE 昼光、あるいは黒体放射光)を設定します。
原則として、試料光源の相関色温度が 5000 K 以上の場合は同一相関色温度の CIE 昼光を、 5000 K 未満の場合は、同一色温度の黒体放射を基準光源に設定することになっています※6

基準光源の(相関)色温度を試験対象光源の相関色温度と揃えるのは、(相関)色温度が大きく離れた光源間では、モノの色の見え方・心理的印象が大きく異なり、適正な評価が難しくなってしまうためです。

また、演色性を決める 2 つの要因の内の、②の「照明光による色順応効果」の要因が十分に働いた結果、最終的に残る色差を評価することになっています。基準光源と試料光源の相関色温度を揃えるという条件は、「色順応効果」を客観的・定量的に取り扱うための前提条件でもあり、数値計算上、「色順応効果」によって光源間の色差をゼロにした後に、なおかつ残る物体の色差を評価する為です。

試験色(色票)については、身辺に存在する代表的な色として、CIE 規格では全部で 14 種決められています。No. 1 ~ No. 8 は、様々な色相から中間色系統(マンセル彩度 4 ~ 8)の色が設定されており、また、No. 9 ~ 12 は彩度の高い純色系の 4 色(赤、黄、緑、青)、更に、心理的に色の違いに比較的敏感な色として、No. 13 は女性(白人)の肌の色、No. 14 は代表的な木の葉の緑として採用されています。なお、CIE 規格は白人を前提としたものですので、 JIS 規格では、黄色人種の女性の肌の色としてNo. 15 をもう 1 色追加しています。

各試験色の分光反射率(正確に言えば分光放射輝度率)が下図のように全て数値で定義されています。これら 14 種( JIS では 15 種)の試験色それぞれに対して、基準光源で照明した時と、試験光源で照明した時との、色順応後に残る色差 ⊿EiCIE 1964 均等色空間における色差)を計算します※7

これらの色差データから、それぞれの試験色に対する特殊演色評価数 Ri が下記の式で定義されます。

Ri = 100 - 4.6 ・ ⊿Ei   i = 1 ~ 14( 15 )

色差 ⊿Ei は必ず非負ですから、この定義式からわかりますように、Ri ≦ 100 となります。

すなわち、Ri = 100 の場合は、試料光源で照明したその色票は基準光源で照明した時の色と全く同じに見える(「色再現性」が最良)、ということを示しています。両光源下での色差 ⊿Ei が大きくなる程、すなわち演色性が悪くなる程、Ri の値は小さくなっていきます。

こうして求められた 14( 15 )種の特殊演色評価数 Ri の内の、R1R8 の 8 個の特殊演色評価数の平均をとったものが平均演色評価数 Ra です。すなわち、

CIE 演色評価法の運用上の注意

上記の定義から解りますように、平均演色評価数 Ra は、各色相を代表する 8 種の色の平均ですから、総合的に見た色再現の良否の“目安”を示す指数で、個別の色の色再現については、特殊演色評価数 Ri を併用する必要があります。

また、試料光源の色味(相関色温度)を指定して初めて演色評価数 RiRa が意味を持ちますので、その前提となる相関色温度を必ず併記しておく必要があります。ほぼ等しい演色評価数の値であっても、光源の色味が大きく離れていれば、モノの色の見え方は大きく異なり、比較すること自体意味がなくなってしまうからです。

更に、演色評価数の定義は、2 種の照明光源下における試験色の「色差 ⊿Ei 」に対して求められる訳ですから、赤味寄り、とか、青味寄りとかいうような、色ズレの「方向」までの情報は込められていません。

演色評価法の改善へ向けて

現在世の中で広く用いられている CIE 演色評価法ですが、上記のように、幾つかの運用上の注意点を孕んでいること、更に、評価数算出処理上の問題点※8も指摘されていることから、改善の検討が進められています。元々の予定では、各種の新しい評価法の提案が議論され、もう何年も前に新しい規格に更新されているはずだったのですが、様々な長所欠点、利害得失もあり、議論がなかなか収斂せず、現時点( 2015 年春)の段階では、まだ新規格が成立しておりません。

また、最も基本的なところでは、現在の CIE 演色評価法は[ A ]の“基準光源に対する色再現の忠実性”に基いた評価法であり、[ B ]の“色の見え方の心理的「好ましさ」”による評価法ではありません。[ B ]のスタンスによる評価法の確立に向けての研究・提案も行われていますが、現時点、まだ広く受け入れられる評価法として確立されているとは言えない状態です。

しかし、いずれにしても、そう遠くない時期に規格が改訂される可能性があると考えられます。

注釈

※1

太陽の光や、焚火の光など、人類誕生以来ずっと慣れ親しんできた光源は、分光的には可視域全体にエネルギーが連続的に分布し、その凹凸が比較的少ない、いわゆる「連続スペクトル」となっています。

※2

例えば、最近は耳にすることは少なくなりましたが、半世紀ほど前には、デパートで色が気に入って買った服を着て、実際に戸外に出てみると、同じ服なのにデパートで見た時の色と何だかちょっと違った色に見えた、というような話がよくありました。この頃は蛍光灯が普及し始めた時代で、デパートの売り場の照明に蛍光灯が採用されていたという場合が多かった様です。当時の蛍光灯は、(今回のテーマの)演色性が良くなかったため、このようなことがよく起ったものです。

※3 色順応効果

私たちが日常体験する色順応効果の例としては、例えば、昼光色蛍光灯の点った部屋で白い紙を見ている状態で、照明光を蛍光灯から白熱灯に切り替えると、切り替え直後は、その紙は幾分黄赤味を帯びた色に見えますが、じきにその不自然さは消えて、さきほどの昼光色蛍光灯の照明下での紙に色と同じように見えます。

人間は、モノの色を見ているとき、「色」だけを見ているのではなく、そのモノが何であるか(この例の場合は、「白い紙」であること)も同時に認識しています。

昼白色蛍光灯の下で、 L 、 M 、 S 錐体がほぼ等しい刺激を受けて脳が「白」と判断しているのですが、白熱灯の分光分布は、(赤く見える)長波長成分強く、(青く見える)単波長成分が弱いので、同じ紙からの反射光によって錐体の受ける刺激が急激に変化します。生体はその変化を緩和するような生理的反応を示し、 L 錐体の感度が鈍い方向に、 S 錐体の感動が鋭敏な方向に変化します。その結果、 L 、 M 、 S 錐体から脳へ送られる刺激信号は、眼への入射光の物理的変化を打ち消すように働き、その結果、脳では L 、 M 、 S 錐体からの刺激信号の強さがほぼ同じ程度となり、「白」と認識することになります。つまり、人間の目が、照明光の切り替わりによる物体からの反射光の分光分布の急激な変化を緩和するように、生理的に視細胞( L 、 M 、 S 錐体)の相対的感度比を変化・順応させているからです。

(ホワイトバランス設定を固定した)カメラで、昼白色蛍光灯の下で白く写った紙に対して、照明を白熱灯に切り替えて同じカメラで撮影すると、照明光の分光分布の違いが直接影響して、紙の色は、白ではなくオレンジ色がかって写ってしまいます。ところが、ホワイトバランスをオートに設定して写すと、(白色光である限り)照明光の分光分布に依らず、(昼光色蛍光灯であっても、白熱灯であっても)写った写真は白い紙に仕上がります。別の例としては、夕焼けの景色をオートホワイトバランスで撮影しても、赤く染まった夕焼けらしく写りません。つまり、オートホワイトバランスは人間の眼の色順応効果に対応するものと考えることができます。

※4 各種色知覚効果と照明光の演色性

私たちが普段見ている光景は、視界が単色のみということは滅多に無く、複数以上の色が併存し、あるいは時間的に切り替わったりしています。このような環境の中では、異なる色同士が影響を及ぼしあって認識される色対比(同時色対比、継時色対比)や色同化などの各種の「色知覚効果」が起こっています。

しかし、光源自体の特性を示す演色性を考える場合には、物体側の空間的・継時的配置等に直接的に起因する色知覚効果の要素は除いて、光源特性そのものが直接関係する色順応効果のみを考慮することになります。(異なる物体色が併存して、色対比や色同化を引き起こすようなことが無い条件で評価します。)

※5 食肉展示用蛍光ランプ

精肉店の店頭では、肉の色がより生き生きとした鮮やかな赤に見えるような光源を使っていることが多くあります。

※6 基準光源選択の例外規定

例外規定として、昼白色蛍光ランプで、相関色温度が Tcp ≧ 4600 K のものについては、同一相関色温度の CIE 昼光を用いることになっています。

※7 色差 ⊿Ei の算出

演色性評価における色差 ⊿Ei は、実際には、下記 ① ② ③ の各数値データから計算によって数値計算で求めます。(詳細はJIS Z 8726:1990を参照下さい。)
① 基準光源および試験光源の分光分布データ
② 各試験色の分光反射率(分光輝度率)の数値データ
③ 色順応補正近似式

※8 現行 CIE 演色評価数算出処理上の問題点

「色差 ⊿Ei 」の算出に、均等色空間としてはまだ完成度の低かった“ 1964 均等色空間”を使用することになっていることや、色順応補正近似式( von Kries' coefficient rule )について、1974 年に CIE 演色評価法が確立された後に更に改善が進んでいること、などの問題点が指摘されています。

照明光 と 演色性
・・・・・ 演色性とは ・・・・・

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