コラム

光と色の話

色温度と主波長

「照明光の色味」では色温度および相関色温度とはどういうものか、またその利便性についてお話ししました。
今回は、私たちの生活空間照明においての(相関)色温度との関わりを説明します。
また、(相関)色温度は「白色光源」にのみ適用できるものでしたが、有彩色光源に対しても、
一つの数値のみで凡その色味が連想できると便利であるという同様な要求があります。
これに対して、「主波長(ドミナント波長)」という表現方法を説明致します。



人間の生活空間用照明の(相関)色温度と心理効果

私たちの生活空間には、太陽光以外に様々な人工光源が使われています。生活空間の用途・目的に応じて、装飾や什器備品だけでなく、その場をどのような光で照明するのかが、極めて重要です。
例えば、オフィスや教室など、活発に頭脳を働かせるに相応しい明るいスッキリした照明環境が求められる場合もあれば、喫茶店や家庭の居間、寝室などには、心理的にゆったりとリラックスした雰囲気が求められます。
このような照明空間の雰囲気作りに重要な影響を及ぼす要素が、照明光の色味(相関色温度)と明るさ(照度)です。この2つの要素の組み合わせによって、私たちの感じる心理的印象は大きく変わります。

色が私たちの心理に大きな影響を与えることはよく知られています。特に基本的な心理効果として知られているのが、寒暖感(寒色、暖色)です。対象物の実際の物理的温度には関係なく、赤〜橙色系統の色は温かみを、青〜青紫色系統の色は寒冷感を覚えます。本来、温度の感覚は人間の五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)の内の触覚で感じるもので、視覚とは別系統の感覚なのですが、視覚(色)を通じて心理的に温度感を受け取っている訳です≪※1≫

(相関)色温度が低い照明光は、赤味がかって見えますので、心理的には温かく感じ、(相関)色温度が高い照明光は青白味がかって見えますので心理的には寒冷感を覚えます。(相関)色温度値と心理的寒暖感とは、高低が逆の関係になっていることに注意が必要です。

右図のように横軸に(相関)色温度を、縦軸に照明の明るさ(照度)をとって、これらの組み合わせが人間の心理に与える影響を考えると、次のような傾向があると言えます。

(相関)色温度が高めの白〜青白い光色で、照度が低い暗めの照明の場合は、陰気な寂しい感じの雰囲気になりますが、同じ光色であっても照度が高い明るい照明になれば、清涼感のあるスッキリとした都会的な雰囲気の照明になります。例えば、デパートの化粧品売り場の照明はこのような照明になっていますね。

一方、(相関)色温度が低めの赤味がかった光色で、照度が低めの照明の場合は、心理的に落ち着いた和んだ雰囲気を醸し出す照明になります。喫茶店や家庭の居間、寝室などの照明の雰囲気です。
ところがこの光色であっても照度が高くなれば、暑苦しい下品な感じを引き起こすような照明になってしまいます。

このように、心理的な快適性という面から評価すれば、右上図のように、(相関)色温度と照度の組み合わせによって、全く逆方向に働くことになります。



蛍光ランプの光色

以上のように、様々な人間生活の場において照明の担う役割は大きいものがあり、人間心理に大きな影響を与えます。従って、その場その場の使用目的に応じて照明を使い分けることが行われています。その例として、私たちに馴染みの深い蛍光ランプは、相関色温度の違いによって(日本では)以下のような5種のタイプに分けて製造・販売されています。
公称相関色温度 6500 K 〜 2700 K に亘って、順に、昼光色、昼白色、白色、温白色、電球色という呼び方で各種タイプが市販されています。具体的な色度範囲(相関色温度および偏差の許容範囲)は右図をご覧下さい。≪※2≫

蛍光ランプの発光原理は、水銀蒸気を充填した発光管内で電極間放電を起こして紫外放射を発生させ、その紫外放射によって管壁に塗布された蛍光体を励起して、可視域の光(蛍光)を発生させるものです。(蛍光励起用の紫外成分は管外に漏れないようにカットされています。) 蛍光体の種類を選択することによって、蛍光発光の分光分布を変えることができますので、様々な光色の蛍光ランプを作製できる訳です。

最近発展の著しい一般照明用のLED白色照明も、(蛍光ランプからLEDランプへの置き換え需要に対して)蛍光ランプのこの区分に準じて提供されることが多い様ですが、LED特有の事情から、区分が見直される方向にあるようです。≪※3≫



逆数色温度

(相関)色温度は、白色照明の光色をおおよそであっても一つの数値で表現できるという大きな利点がある訳ですが、複数の白色光の「色差」については、
K
(ケルビン)で表現される(相関)色温度値の差ではうまく表現しきれません。黒体軌跡での色温度目盛は、色温度値が高くなる程、目盛間隔が狭く収斂して行き、一様にはなっていないからです。
(相関)色温度差 ⊿TC P =100 K である2種の白色光について、例えば、10000 K と 10100 K の間の色差 ⊿E1 と、3000 K と 3100 K の間の色差 ⊿E2 とはかなり異なっていて、⊿E1 < ⊿E2 になっています。
これは、黒体の「温度差」と「色差」の関係が、単純な比例関係にはなっていないからです。

このような事情から、(相関)色温度値との関連の中で、白色光間の「色差」についても表現したい、というニーズに対して、「逆数(相関)色温度 Reciprocal (correlated) color temperature」 と呼ばれる指数が考えられています。
逆数(相関)色温度は、(相関)色温度の逆数の百万倍として定義され、その単位は mrd または mrkで表示されます。≪※4≫


例えば、色温度 TC =2856 K の標準イルミナント A の逆数色温度は
TC-1=106/2856=350.1 mrd 、 相関色温度 TC P =6504 K の標準イルミナント D65
逆数相関色温度は、TC P-1=106/6504=153.8 mrd となります。≪※5≫
逆数(相関)色温度の表示空間は、概略は均等色差空間とみなすことができ、逆数(相関)色温度の差 ⊿TC-1 ( ⊿TC P-1 ) と色差 ⊿E との関係は(相関)色温度の絶対値には概ね無関係とみなせるようになります。
逆数色温度の差がおおよそ5.5 mrd 以内であれば、(相関)色温度値に関係なく人間の眼ではほぼ区別がつかない色差であると言われています。



主波長 ( λ d

(相関)色温度という概念は、(大雑把でもよいので)一つの数値だけで色味を連想できるという大きな利便性から世の中で広く使われていますが、ただ、その適用範囲はいわゆる白色光源に限定されます。

ネオンサインやクリスマスツリー飾りの赤や緑のLEDなどの有色光源について、その発光色を示すに際しても、2つの数値 ( x , y ) で表現すれば、客観的で正確なのですが、白色光の場合と同様に、
2つの数字からその色を連想するのは簡単ではありません。やはり多少正確さは犠牲にしてでも一つの数字だけでおおよその色が連想できれば非常に実用的です。このような要求に応えるものが「主波長」です。 ≪※6≫

今、下の xy 色度図において、例えば
F ( 0.32 , 0.51 ) という色があったとします。
白色点 W ( 0.333 , 0.333 ) からこのFに向かって直線を引き、更にそれをまっすぐ延長して行くと、単色光軌跡(馬蹄形の外周曲線部)に突き当たります。この点を S とすれば、この点 S には、或る波長の単色光の色度が一義的に対応していますので、この単色
光の波長を以て、色 F の 主波長 ( λ d ) とします。(下図の場合には点 S は550 nmの単色光の色度点になっていますので、色 F の主波長は550 nm ということになります。) 単色光の色は、誰もがお馴染みの虹の色の順番に並んでいて、波長から色を連想するのは比較的簡単ですから、主波長の値を聞けば、どんな色かがすぐ連想できる訳です。≪※7≫



補色主波長 ( λ c

上記の色 F の場合とは別の、例えば M ( 0.44 , 0.20 ) という色の場合はどうでしょう。
白色点 W ( 0.333 , 0.333 ) から点 M に向かって引いた直線を延長して xy 色度図の外周に突き当たるのは、単色光軌跡ではなく、純紫軌跡です。
純紫軌跡との交点 N には、単色光は対応しておらず、色 F の場合のようにはいきません。このような場合には、この直線を逆方向に延長すると、点 G で単色光軌跡に突き当たります。この点 G には或る単色光の波長が一義的に対応していますので、この波長を以て、色 M の補色主波長 ( λ c ) とします。図の場合、点 G は508 nm の単色光の色度点になっていますので、色 M の補色主波長は 508 nm ということになります。

補色主波長の値 ( λ c = 508 nm ) から、“直接的に” 色 M を連想することは難しいのですが、「補色」という特殊な関係を意識することにより、間接的ですが、 M という色を連想することが可能になります。xy 色度図は線形空間ですから、白色点 W を中心に正反対の位置に存在する色同士は厳密に物理補色の関係(2色を適切な比率で混色すると無彩色になる関係)にあります。
上図の場合、先ず、“補色”主波長という表示形式を取っていること自体から、その色度点は、xy 色度図上で、純紫軌跡を底辺とし、白色点 W を頂点とする三角形の領域内にある・・・すなわち紫〜赤紫〜赤の範囲の色・・・であることが分かり、次に 508 nm の単色光は緑色で、その補色ということから赤紫(マゼンタ)色系統ということが連想できます。(主波長に比べて、補色主波長の場合は、連想プロセスがワンステップ増えるため、幾分回りくどい感じは拭いきれませんが・・・。)

以上のように、主波長、補色主波長は、色の心理的三属性の色相に対応するものと言えます。



刺激純度 ( pe および pec

主波長(補色主波長)はその定義からわかりますように、その色と白色点 W とを結んだ直線上(およびその延長上)の色度点は、全て同じ値の主波長(補色主波長)の値を持つことになります。換言すれば、この直線上にある色はすべて同一色相であるということになります。

「色の客観的な表現と伝達 (その3)」でお話ししましたように、xy 色度図では白色点 W から放射状に外に向かうほど彩度が高くなっています。つまり、白色点 W から外周(単色光軌跡または純紫軌跡)までの直線距離
WSまたはWN)に対して、白色点 W からその色度点までの距離(WFまたはWM)の相対距離比(%)を刺激純度と定義すれば、この刺激純度の値は「彩度」を示すことになります。
なお、補色主波長の場合は、白色点 W からその色 M へ引いた直線を逆方向に延長しましたが、
刺激純度については、直線をそのまま延長して突き当たる純紫軌跡との交点 N と白色点 W の距離を100%とします。


xy 色度図の外周(単色光軌跡と純紫軌跡)上の色は、全て刺激純度100%の最高彩度、
白色点 W は刺激純度 0% の最低彩度(無彩色)ということになります。



主波長(補色主波長)表記と色温度(相関色温度)表記 の利便性共通点と相補性

上述のように、主波長(あるいは補色主波長)の定義は、色温度(相関色温度)の定義と全く異なりますが、一つの数値から概略の色が比較的容易に連想できる、という利便性については共通しています。また、更にもう一つ別の数値を抱き合わせて表示すれば正確に色を表記できる、という点 ・・・・・ 相関色温度( TC P )表記の場合には、黒体軌跡からの偏差( duv )、主波長 λ d (補色主波長 λ c )表記の場合には刺激純度( pe または pec )・・・・・も共通しています。
両者で異なっているのは、(相関)色温度は黒体軌跡近傍の白色領域に対してのみ、また、(補色)主波長は有彩色領域に対して適用される、という補完的関係にあると言えます。≪※8≫




≪※1≫ 共感覚

その感覚本来の系統以外に属する感覚反応を引き起こす現象を共感覚と言っています。本文中に説明した暖色・寒色はその典型例ですが、その他にも、黄色い声(甲高い女性の声は聴覚)、美味しそうな色の料理(美味しさは味覚)などの表現が挙げられます。

≪※2≫ 蛍光ランプの相関色温度区分

日本では本文中での説明のように5つのタイプが市販されています( JIS Z 9112:2012 )が、別の区分で市販されている国もあります。例えば米国では、公称相関色温度が、6500 K 〜2700 K の範囲で6段階に分けられています。
( ANSI C78.376-2001 Specifications for the Chromaticity of Fluorescent Lamps )

≪※3≫ LED等の固体照明における相関色温度区分

近年、発展普及の目覚ましいLEDを代表とする固体照明においては、相関色温度区分が変更される方向にあるようです。
例えば米国国家標準( ANSI NEMA ANSLG C78.377-2011 Specifications for the Chromaticity of Solid State Lighting products )においては、従来の蛍光ランプの相関色温度区分とできるだけ共通な区分を目指しながらも、固体照明光源の製造上の特殊な事情(歩留りの確保)もあって、当面は異なった区分が追加され、計8段階(一部、公称相関色温度値も変更)の区分となり、また、各区分の許容色度範囲の規定の仕方も変更されています。日本のJISにもこの影響が及ぶことが考えられます。

≪※4≫ 逆数(相関)色温度の単位

mrd はmicro-reciprocal-degreeのことで、ミレッド と読み、
mrk はmicro-reciprocal-Kelvinのことで、ミレック (または毎メガケルビン)と読みます。

≪※5≫ 標準イルミナント A および D65

標準イルミナントとは、物体色を観察する場合の標準照明条件として国際的に取り決められた照明光の分光分布特性で、” A ” は、熱放射型光源を代表するもの、” D65 ” は昼光(昼間の太陽光)を代表するものとして分光分布特性が数値で細かく規定されています。(「色の客観的な表現と伝達 (その3)」

≪※6≫ 主波長

主波長は、ドミナント波長( dominant wavelength )と呼ばれることもあります。

≪※7≫ 主波長 λ dと ピーク発光波長 λ p

時折、「主波長 λ d 」の意味を取り違えて、「ピーク発光波長 λ p 」の意味で誤用している場合があるようですので、注意が必要です。

ピーク発光波長 λ p とは、その光源の分光分布特性において、物理的に最も出力が大きい波長を指しています。従って、その波長 λ p 以外の波長域の分光分布特性の形状がどんな特性であっても関係ありません(光源の「色」と直接の関係はありません)。しかし、主波長 λ d は、本文中の説明のように、その光源の色、すなわち色度点( x , y )に対して決まるものです。
従って、物理的なピーク発光波長 λ p が同じであっても、発光色(分光分布特性の形状)が異なれば、主波長 λ d は様々な値をとることになります。

≪※8≫ 物体色への主波長表記の適用

色温度表記と主波長表記の適用上の相違点にはもう一つあります。色温度表記は、光源色(白色光)のみに適用でき、物体色には適用できませんが、主波長表記は光源色、物体色のいずれに対しても適用できます。光源色の場合は、本文中にも記しましたように、白色点 W を ( 0.333 , 0.333 ) にとることになっています。これに対して物体色の場合には、その物体を照明する光の分光分布特性に依存してその物体の色が変化しますので、照明光(標準イルミナント)自身の色度点を白色点 W とします。
つまり、照明光の色に対して、その物体がどの色相の方向に「脚色」したのか、という考え方になる訳です。