植物によって、それぞれに適した光が必要です。
シグニファイ(旧フィリップスライティング)では、生産者、大学、研究組織と協力し、何年もかけて開発した「光レシピ」(スペクトル、光量、照射時間、配光特性の組み合わせ)を提供しています。
これらの光レシピにより、形状、色、食感、栄養成分など植物特性をコントロールすることができ、作物生産高と品質の向上を可能にします。
静岡県焼津市は、南アルプス南部にある標高3,198mの間ノ岳に源を発する、大井川が作り出した扇状地・志太平野に広がる、人口約14万人の町。漁港を中心に発展したことから、遠洋漁業や水産加工業が盛んなことで全国的に知られていますが、一方で大井川を水源とする豊かな水と温暖な気候から、山間部ではお茶やみかん、平野部では水稲や施設野菜、露地野菜など、集約性の高い農業が行われています。
そんな焼津市で約40年間に渡って事業を展開する有限会社新日邦が、2014年1月から操業しているのが808FACTORYです。「食の安全・安心が求められている今だからこそ、品質管理の徹底した工場内で栽培される新鮮でおいしい野菜をお届けしたい」という同社。敷地面積5,000㎡、建築面積約3,000㎡の大規模な完全人工光型植物工場で、大井川水系の南アルプス伏流水を使い、「グリーンリーフ」、「フリルレタス」、「ロメインレタス」、「シルクレタス」と、4種の葉菜類を生産しています。
工場内をみると、2,000㎡の栽培室内に12段の栽培ラックを設置することで面積当たりの栽培効率を高め、総植付数30万株以上、1日当たり2万株の収穫が可能となっています。これらの野菜は、工場内に設置された各種計測センサーや定点観測カメラなどから得られる情報を一元管理することで、最適な栽培環境を適切にコントロール。さらに、清浄度の高い食品加工工場レベルの衛生管理を実施し、病害虫や異物混入のリスクを最大限にまで低減しています。
野菜生産事業を担うアグリ事業部長の甲斐剛氏は、同社の野菜は地元静岡を中心に、首都圏や中京方面といった大消費地も含めた、広いエリアへ出荷を拡大しているとした上で、植物工場での野菜生産のメリットを次のように説明します。
「完全人工光による閉鎖型植物工場の最大のメリットは、気候や環境の変化に左右されず、年間を通して安定的に生産と供給ができることです。また高度な栽培管理と徹底した衛生管理によって、ホコリや虫、異物の混入を完全に排除し、農薬を一切使わない、品質の高い安全・安心な野菜を生産できることにあります。」
一方で甲斐氏は、完全閉鎖型植物工場のデメリットとして、設備コストとランニングコストが最大の課題だと指摘します。同社では、コストの問題と同時に環境負荷の軽減という観点から、操業時より太陽光発電を積極的に導入。工場の屋上と隣接する土地に太陽光発電設備を備え、発電施設の最大出力と、植物工場での最大消費電力がほぼ等しいレベルを達成しています。それでも、植物工場での安定生産と経営の持続可能性という点から、設備コストやランニングコストのさらなる軽減は、大きな課題だったのです。
植物工場の操業時、同社では人工光の光源として、蛍光灯を導入しました。甲斐氏によれば、当時は光源としてのLEDの導入はコストが高く、実績や信頼性についても不安があったのだといいます。このため操業開始から3年計画で、生産をしながら蛍光灯やLEDについて調査・検討しようと計画をしました。
その結果、蛍光灯については、発熱によって野菜が焼けたり商品としての寿命が短くなってしまうこと、電灯の寿命により半年程度で光の強さが弱まってしまうこと、そして実際にはそのような事例は起きませんでしたが、常に電灯の破損による異物混入のリスクがあるといった問題点が明らかになってきました。
「しかしLEDについては、こうした問題点やリスクがありません。また設備コストやランニングコストについても、中長期的に見ると十分にコスト削減につながるということと、いくつかのLED照明の比較試験で一番結果が良かったフィリップスLEDの導入を決めました。」
現在、同社では2014年から操業している第一工場、そして2017年に竣工した第二工場にそれぞれ約1万2,000本のフィリップスLEDを導入しています。
これにより蛍光灯使用時と比較すると、電力コストはおよそ4割減で、且つ野菜の生育速度が2~3割早くなっています。生育速度が早くなるということは、同一設備・同一面積での収量が増加するということであり、同じ品質で同じ大きさの野菜が一株できるのにかかるコストが削減できているということです。一方で、野菜の味わいや栄養などは、以前と全く変りはありませんでした。
このように808FACTORYでは、フィリップスLEDの導入により、大幅なコスト削減と収量アップを実現しています。その上で甲斐氏は、今後のビジョンについて次のように結んでくれました。
「気候変動によって露地栽培の野菜生産が難しくなるなか、大規模植物工場による野菜生産は、国内はもとより海外でも、これから大きな注目を集めると思われます。そこで、私たちが実践してきたノウハウを広く発信し、植物工場で生産した野菜を、より皆さんの身近にあるスタンダードな食品にしていきたいですね。」