● 白色 LED
20世紀末に青色 LED が発明され、それまでに実用化されていた緑、赤の LED を合わせて加法混色の三原色が揃ったことにより、私たちの日常生活に直結した LED の応用が一気に加速し、今日も急速に開発・改善・普及が進展しています。特に LED は従来型光源に比較して低消費電力・長寿命という特長もあって、白色 LED が大きな期待をもって世に受け入れられつつあります。弊社は LED 照明装置の専門メーカーとして、これまで白色 LED を用いた照明製品群を多数世の中に送り出してきています。
● 白色 LED の原理
LED は、本来はその分光分布が狭い波長範囲に集中しているため、単色光に近い光源(可視域では有色光源)です。従って、可視域全体 ( 少なくとも B、G、R ) に亘ってエネルギー成分を持つ必要がある白色に対しては、特別な「仕掛け」を設けなければ実現できません。この「仕掛け」には幾通りかの方式があります。
① マルチチップ LED 方式
複数色の LED チップを同一パッケージ内に隣接実装して発光させ、同時加法混色により白色を得る方式です。
【補色方式】
補色関係にある二色、例えば、青 ( B ) と 黄 ( Y ) の LED チップを組み合わせる方式です。≪※2≫
【三原色 BGR 方式】
三原色の青 ( B )、緑 ( G )、赤 ( R )の LED チップを使用し、同時に光らせて混色させることによって白色を得ます。
② シングルチップ LED 方式 (蛍光励起方式)
青またはそれよりも波長の短い LED (紫 LED や近紫外 LED )と蛍光体との組合せで白色を得る方式です。蛍光体に、ある波長の光を照射すると、照射光(これを励起光と呼びます)の波長より長い波長の蛍光が発生します。励起光源の LED を直接(あるいはその直前を)蛍光体で覆うことによって、蛍光と蛍光体層を透過した励起光の同時加法混色により白色が達成されます。
【補色蛍光方式 (青励起光+黄蛍光)】
青 LED を蛍光体に照射して黄色の蛍光を発生させ、補色関係(青と黄)の同時加法混色によって、白を実現しています
( B+Y=W )。エネルギー変換効率が良く、これまでの白色 LED はこの方式が主流でした。青 LED の励起光でイットリウム・アルミニウム・ガーネット( Yttrium Aluminum Garnet )という蛍光体により黄色の蛍光を発生させることから通称、Blue-YAG 型とも呼ばれています。
【三原色蛍光方式 (紫 or 近紫外励起光+BGR 蛍光)】
励起光として、近紫外あるいは紫色の LED を用い、B、G、R の蛍光を発生させる3種の蛍光体で励起用 LED を覆ったものです。
当社の「自然光 LED 」は、波長405 nm の紫色 LED を励起光源として、B、G、R の3種の蛍光を発生させる蛍光体を用いることによって、可視域全域に亘っての連続スペクトルを実現しています。分光分布に他の方式による白色 LED のような極端な凹凸が無いことから、非常に良好な演色性を実現しております。≪※3≫
● ネガカラーフィルムの特性
最近は専らデジタル写真全盛になってしまいましたが、つい十年程前まではフィルムを使用した銀塩写真の時代でした。ネガカラー写真では、フィルムと印画紙による減法混色がフルに活用されています。
ネガカラーフィルムには、フィルムベース材の上に青 ( B )、緑 ( G )、赤 ( R ) の感光材料が重ねて塗布された3層の感光層が設けられています。このフィルムをカメラに装填して撮影すると、カメラの撮影レンズを通過してフィルム上に到達した光が、その露光量に応じてこれらの感光層を感光させます。これを現像すると、カラーネガ(陰画)が得られます。
カラーネガフィルムの感光特性は、図のように、B、G、R の感光層がそれぞれ、可視域の短波長域、中波長域、長波長域に感度を持っています。フィルムを現像したときの各感光層の発色特性は、各感光層がそれぞれの補色≪※3≫に発色します。具体的には、青 ( B ) 感光層は黄 ( Y ) に、緑 ( G ) 感光層はマゼンタ ( M ) に、赤 ( R ) 感光層はシアン ( C ) に発色します。
実際には、フィルム上に結像された被写体からの光の分光分布と各感光層の感度との組合せで各感光層の感光量が決まることになります。
この撮影済のフィルムを現像すると、各感光層 ( B、G、R ) の感光量に応じて各感光層の発色量 ( Y、M、C ) が決まり、カラーネガ(陰画)が得られます。
● ネガカラーフィルムによる印画紙への焼付け
次に、このカラーネガから印画紙に焼付け(および引き伸ばし)によって最終的なカラー写真(陽画)を作り出します。焼付け機は、撮影済みのカラーネガフィルムを白色光で照明し、ネガに記録された陰画の像を印画紙上に結像させます。
印画紙も、カラーネガフィルムと同様に、印画紙ベース材の表面に B、G、R の感光層が塗布されており、これを現像すると、各感光層はそれぞれの補色に発色するようになっています。この印画紙を現像すると、Y、M、C の発色により、陰画の陰画、すなわち陽画が得られることになります。
以上が、ネガカラーフィルムによるカラー写真の色再現なのですが、この説明だけでは、なかなか解りにくいところがあると思います。以下に、黄色のレモンを撮影した場合を例にとって、レモンの黄色が減法混色の活用によって、具体的にどのように色再現されるかを説明します。
(白色光源下で)黄色のレモンからの反射光は、可視域短波長 ( B ) は僅少で、中波長 ( G ) と長波長 ( R ) が主成分になっています ( Y = G + R ) ので、フィルムの G、R の感光層が強く感光し、B の感光層は殆ど感光しません。これを現像すると、感光量の多い G と R の感光層がそれぞれマゼンタ ( M )、シアン ( C ) に発色し、B の感光層は殆んど発色せず無色透明になります。つまり、現像済のカラーネガフィルムのレモンの画像はマゼンタフィルタとシアンフィルタが重ねられた形になっています。
焼付け過程でこのカラーネガフィルムを白色光で照明すると、M と C のフィルタを共通に透過する短波長光 ( B ) がネガフィルムを透過し、印画紙上に結像されます。従って印画紙の B 感光層のみが強く感光しますので、これを現像・定着処理すると、青 ( B ) の補色である黄 ( Y ) に発色することになり、レモンの黄色が陽画として得られることになります。
以上より判りますように、ネガカラー写真は、補色に発色したネガフィルムの3つの発色層 ( Y、M、C ) の減法混色によって印画紙上に被写体の色を再現していることになります。
混色について説明した書物などには、B、G、R の色光の混色図が掲載されていることがよく見かけられます。この混色図は、「同時加法混色」を説明するのが目的ではありますが、実際にはその説明図は書物に「印刷」されたものですから、減法混色によって表現されていることになります。
また、この連載をパソコンディスプレイでご覧になっている場合は、同時加法混色の原理図も減法混色の原理図もいずれも、「並置混色」によって表現していることになります。
講演会やセミナーの会場で、プロジェクターでスクリーンに映し出された画像を、カメラで撮影している人を見かけることがあります。この時、フラッシュを焚いて撮影している人がいますが、これは、(マナー的にも問題がありますが)同時加法混色の原理を考えれば、適切な撮影とは言えません。スクリーン上では、プロジェクターからの BGR の色光が投射され、BGR 毎の放射照度分布が重ね合わされた結果として、その画像ができあがっています。そこへ、フラッシュの白色光(分光分布が全波長域に広がっている)を浴びせる訳ですから、スクリーン上では、本来の画像の色光とフラッシュの白色光との間で同時加法混色が起こることになり、その結果、コントラストが低下し、メリハリの無い写真になってしまいます。
異なる2種の有彩色を混色した結果が無彩色になる関係を補色(物理補色)の関係にある、といいます。色相環の反対側同士に位置する色を混色すると、概ね無彩色になることから、色相環で対向位置にある色同士のことを補色と呼ぶことも多いようです。ただし、色相環の対向色間の混色結果には、若干の「色味」が残ってしまい、厳密には補色の関係とは言い切れない場合もありますので、漠然とした意味で補色として扱われていると考えられます。また、ある色を数分間凝視した後、急にその色を消去すると、眼の残像として暫く補色が認められます。これを「心理補色」と言います。「物理補色」と「心理補色」は大雑把には似ていますが、厳密には一致してはいません。
分光分布グラフからわかりますように、光源色として殆ど同じ白色を達成する「白色 LED 」であっても、その達成方式(同時加法混色の仕方)によって分光分布特性は様々です。マルチチップ方式 ( B + Y あるいは B + G + R )や、シングルチップ方式の内の Blue-YAG 型( B 励起光+Y 蛍光)による白色 LED の場合、「白色」と言っても可視域の分光分布特性にどうしてもかなりの凹凸が残ってしまうことになります。その結果、これらの分光分布に凹凸が目立つ「白色光」で照明された物体の色は、物体の特性(分光反射率特性)との組合せによっては、太陽や白熱電球などの光源で照明した場合と比べて、かなり異なった色の見え方になってしまう(演色性が劣る)場合があります。